連載 ベンチャー列伝 第15 回 個人の志向と企業戦略を 統合する育成の仕組みづくり
急成長しているベンチャー企業が新たな展開期に入った時、人材育成のあり方も方向転換を迫られる。
「バイク王」を運営するアイケイコーポレーションは、人事部門から「教育研修室」を独立させて人材育成の仕組みを再構築。
次のステージに向けての成長戦略を描いている。
オートバイ買取専門業のビジネスモデルを確立
「バイク王」のCMで有名なアイケイコーポレーション。オートバイ買取専門店を全国で展開し、国内中古オートバイ市場のリーディングカンパニーとして急成長をとげている。「当社が急成長できたのも、オートバイ出張買取の実施を創業当時から推し進めてきたからです」と語るのは、同社取締役副社長の大谷真樹氏である。
「当時、出張買取という方式を導入しているところは多くありませんでした。そこで専門の査定員による出張買取を行ったところ、買取台数が着実に増加していきました。それに伴い、店舗や社員を増やしていきました」
買取専門のビジネスは自動車買取業者が先行していたが、同社はオートバイでそのビジネスモデルを確立させたパイオニアだ。そのビジネスモデルとは、ユーザーから直接オートバイを仕入れ、販売店が集まるオークションに出品し、売るというものである。
1994年、アイケイコーポレーションの前身であるメジャーオート(有)を設立。その後、「キャブ」や「オーケイ」などと屋号を分けて、それぞれのブランドを独立会社で運営し、拠点数を増やしていくという事業形態を取っていた。しかしそれでは、ブランドごとに電話受付といった業務オペレーションが発生し、煩雑で非合理的になっていく。そこで一定数、ブランド数が揃ってきた2001年頃から統合を開始し、徐々に「バイク王」という1 つのブランドで全国的に多店舗展開を図っていく形態に方向転換。2003年1 月には、グループ会社のすべてをアイケイコーポレーションに統合した。
成長とともに人材育成のあり方も方向転換
全国への事業展開に伴い、個々人の営業力ではなく、事業を仕組み化して組織力を活かす必要性が出てくると、人材育成にも仕組みが必要になっていった。
店舗のスタッフたちは、朝、集合して朝礼を行うと、出張買取に外へ出払っていき、夕方頃に帰ってくるという仕事のサイクルになっている。1 人ひとりに店長(社員)が同行するわけではないため、昼間外で何が起きているかは、意識して各自に連絡を取らなければわからない。会社の発展に伴って人数が増えてくるとますます、管理しきれない状況となっていった。これではスタッフの成長具合も見えないため、何か手を打つ必要があったのだ。実際、当時の店舗スタッフの定着率は非常に低かったという。
とは言え、当時入社した人材が皆、辞めてしまったわけではない。実は、現在の主要な上位管理者は、その頃入社した人たちである。彼らは、仕組みが整っていない中で、“仕事というのは自分で見つけるもの”などの考えを持ち、自律的に育ってきた人たちだ。しかしそれゆえ、現在ある問題が生じているという。
「古くからいる上位管理者のマネジメント手法が、今の若い人たちにフィットしないということです。彼らはプレイヤーとしては非常に優秀ですが、人を教育するノウハウを持ち得ていなかったのです」(大谷氏、以下同)
人間にはいろいろなタイプがある。中でも、自発的な人と受け身の人が上司・部下の組み合わせになると、お互いの気持ちがなかなか理解できず、コミュニケーションに齟齬が生じる。良い悪いではなく、この問題の解決には、教える人と教えられる人、それぞれに、お互いを理解するための教育が必要となってくる。単に、手法を教えるだけでは不十分なのだ。