企業事例 本田技研工業 柔軟な組織が さまざまな経験の場を 多くの従業員に提供
ライン長の裁量が広く、仕事に合わせて自由に人や組織を編成できるHonda。
仕事に合わせて、その都度組み替えられる柔軟な組織では、それだけ人は、さまざまな経験を積むチャンスが増える。管理職になる前から、マネジメント経験を積むことができるのだ。仕事の中で人が育つと考えるHonda では、管理職も管理職に至る過程で成長しているのだ。
それを可能にする同社の仕事のやり方を紹介する。
仕事のための組織が自然と人材を育成する
本田技研工業(以下、Honda)の組織は、「仕事を効果的に成し遂げるために必要な人材を配置し、業務遂行のための役割機能が明確化されたもの」であり、その目的のために最適化されている。人を育てるために組織があるのではなく、当然だが、仕事を効果的に成し遂げるために組織があるのだ。
しかし、仕事を効果的に成し遂げるためには、人が育ち続ける必要がある。だから、人が育つように仕向ける。Honda は、この順序に、ほとんどブレがない企業かもしれない。外から見ると、まるで自然と人が育っているように思える組織の中で、人を育てられる管理職が生まれるポイントはどこにあるのか。また、どのように人を育てていっているのか。
着目すべきポイントは2 つある。1つは、Honda がめざす柔軟な組織のあり方と、それを実現するための人事管理の考え方。Honda の管理職の特徴が、ここに出ている。もう1 つは、脈々と受け継がれてきたHonda フィロソフィー(人間尊重「自立」「平等」「信頼」)に基づく人材育成の考え方(図表1)と、能力開発における管理職の役割である。
専門性を最も大切にするHondaの資格制度
まず、Honda がめざす組織とそれを可能にする人事管理の考え方について説明しよう。周知の通りHonda は、技術で興り、独創性で発展した企業だ。したがって何よりも求めるものは、従業員1 人ひとりが専門性を高めることである。人事部人材開発センター所長の広瀬文郎氏は、「はじめに専門性ありき」だと言う。そして、そのような専門性の高い人材を十分に活用できる組織になることが、同社の組織づくりに関する一貫した姿勢である。
Honda の人事管理では、従業員1人ひとりが専門性を高めることが第一だと考えているため、専門性の高さを示す資格制度が軸となっている。
資格制度では、年1 回認定の機会があり、一般従業員も管理職も、その専門性の高さにより資格が付与される。
管理職の資格は、技能・技術系であれば 「技師─主任技師─技師長」、営業・管理系では「主幹─参与─参事」、また、研究開発系は「主任研究員/主任技術員─上席研究員─主席研究員」となっている。
このうち、いわゆる課長職に相当するのは、技師、主幹、主任研究員/主任技術員であり、工場長、部長、室長等は、主に主任技師、参与、上席研究員の中から任用される。特徴的なのは、管理職の資格を有する人が、いったんライン長(課長、部長等)に任用されても、後日その役割を離れてエキスパートに戻ることもあれば、再びライン長になることもあるという、「出入り自由」な制度であるところだ。