企業事例 アステラス製薬 マネジメントに専念できる 仕組みと環境づくりで 部下育成に注力させる
2005 年に、日本製薬会社2 社の合併で誕生したアステラス製薬。
合併時に整えた人材育成の指針の中には「育成型マネジャー」を養成することが盛り込まれた。
経営ビジョンを実現するために、ベクトルを合わせることが不可欠と考えられたからだ。
コーチングの徹底教育や、メンター制度への上司のかかわりの明確化などといった施策と、そもそもマネジャーが、部下育成を図ることにより自組織に課せられた成果責任を果たすことができる環境づくりなどが、部下の成長・キャリアを長期的スパンで考えるマネジャーの育成に貢献している。
2 つの歴史と、多様な人的資源を擁するアステラス製薬。2005 年、山之内製薬と藤沢薬品工業が合併し、発足した企業である。新たな歴史を刻むに当たり、同社が最重要課題と位置づけたのは「人的資源の活用」だ。中でも意欲的に取り組んでいるのが、「育成型マネジャー」の教育であるという。なぜ育成型マネジャーを人的資源の要と考えるのか。また、その教育の具体的手法とはどんなものなのだろうか。
最前線に立つ上司が企業の方向性を握る
「企業の土台を支えるのは制度ではなく風土。そしてその風土、雰囲気の7割は管理職のマネジメントスタイルがつくると言っても過言ではありません」と語るのは、アステラス製薬の教育を一手に担う、アステラス総合教育研究所の代表取締役社長、阪本秀造氏である。どのようなマネジメントスタイルでどう部下を育成するのか、それがカギになるとも阪本氏は言い切る。同社の経営ビジョンでめざす「健康を願う人々への付加価値最大化」達成のためには、人材の能力・可能性を最大限に発揮させることが必要不可欠だが、その要諦は以下の5 つ。これらを、会社とマネジャーが中心となって進めていく。
・ 高い成果を発揮し続ける能力と意欲のある人材に対する、最高水準の能力開発支援
・ 役割と成果に基づく、公正で納得性の高い評価・処遇
・ 人種・国籍・性別・年齢に関係なく、実力主義に基づく適所適材
・ 優秀な人材が能力を発揮できる、シンプルで最適な組織の実現
・ 自由闊達な議論、コミュニケーションの場の形成
育成型マネジャーが必要とされる所以を物語る項目が並んでいる。なお、育成型マネジャーを意識的に養成するというメッセージは、グループ社員全員に配布した「人事ビジョンブック」にも明言されている。
「必要とされるマネジャーは、マイクロマネジメント――部下に対し、強い監督、干渉を行う管理型の上司ではありません。あくまで自律型の部下を育てることができるマネジャーです」(阪本氏、以下同)
同社のマネジャー層(管理職)は約400 人。本部長クラス、部長クラス、課長クラスであり、部下は数人から、数十人持つ人もいる。特にフロントラインに立つ課長クラスの約300 人に対して、管理型の上司にならないことを強く意識させている。