企業事例 アサヒビール 部下が主役の舞台を演出する プロデューサーをつくる
アサヒビールでは、管理職を「プロデューサー」であると定義する。
その心は、部下を舞台上の役者に見立て、1人ひとりの持てる力を100%発揮させるためのシナリオを書いて欲しい、舞台づくりをして欲しいという想いからだ。
そのためのコミュニケーションスキルとして“プロデューサー”層にコーチングを身につけさせる一方で、ブラザー・シスター制度、キャリアアドバイザー制度などさまざまな施策を用意している。
組織の要である管理職を組織全体で縦横に支えるのが同社の特徴だ。
管理職ではなくプロデューサーと呼ぶ
アサヒビールでは、管理職を「プロデューサー」と呼ぶ。管理職の「管理」という語感は、「ビール会社には似あわない」と執行役員人事部長・丸山高見氏は話す。
「部下をギュウギュウに縛り付けるのではなく、のびのび、生き生き元気にいこうよと常にトップが語りかけています。社員が仕事のやりがいを感じられることが、やがて顧客満足にも結びつくと考えているからです」
1998年から段階的に導入した人事制度改革において、管理職に替えて「プロデューサー型人材」という新しいコンセプトを打ち立てた。「部下が生き生きと働ける舞台を創出し、演出する人材」である。
「皆が働きやすい環境を整えることを、私たちは“舞台づくり”と呼びます。舞台に立つ、さまざまな個性を持つ俳優に社員をなぞらえて、彼・彼女らを生き生きと輝かせ、同じ目標に向かって最大限のパフォーマンスを上げさせるような状況をつくること。それがこれからの時代に求められる管理職=プロデューサーの役割です」(丸山氏、以下同)
プロデューサーの中でもキーパーソンになるのは、 現場のグループを束ね、社員1 人ひとりに力をつけさせ、育てていく立場にある「所属長」である。研修体系の中でもこの層に重点を置いている。所属長は部長や支店長に当たり、その数は全国で約180人にのぼる。
社員を大切にする風土に合致したコーチング
社員が生き生きと働ける舞台をつくるために、所属長が身につけるべきスキルとしてアサヒビールで考えられているのは、コーチング、メンタルヘルス、キャリアアドバイスのスキルなど。このうちコーチングが最も重要だと考えられている。
「アサヒビールには、人を大切にする風土があります。部下を大切に思う所属長は以前から多いのですが、その想いを実際の育成につなげていくには、コミュニケーションスキルが必要です。そのためにはコーチングの学習が最も適しているのではないかと考えたのです」
コーチングの基本には、人間性尊重の考え方がある。それが、アサヒビールの「社員を大切にする」「社員の自律的な成長を引き出す」という方針と一致したことが、コーチングを導入する決め手となった。
「目標に到達できなかった時、上司は頭ごなしに“なぜできなかったのか”と問い詰めがちですが、それでは萎縮するだけで、考えられなくなる部下もいます。コーチングでは、“何が阻害要因だったのだろう”と問いかけて、本人に考えさせます。分析し、打開策がいくつか出てきたら、“優先順位をつけてみよう”などと上司がさらに働きかけ、実際の行動に結びつくような部下の考えを引き出します」