My Opinion② 上司として当たり前のことを 当たり前に行うことが良き上司たる第一歩
企業内の人材育成において、良くも悪くも最も影響を与えるのは職場の上司である。
セミナーなどを通じて部下育成ノウハウを伝授している嶋津良智氏は、経営環境の変化などにより、上司が自らの役割を十分に果たせなくなっていることが、今日の職場が不調をきたしている原因だという。
上司が、当たり前のことを当たり前に行えるようになれば、部下とのコミュニケーション不足が解消され、信頼関係の構築へとつながっていく。
そしてこれこそが、上司が部下を育てるために不可欠なことなのである。
人の成長は出会う人によって変わる
今から二十数年前、私は大学を卒業し、あるベンチャー企業の営業マンとなった。その会社で6 年間を過ごす中で、2 人の上司に出会った。1 人は考え方が私とまったく異なり、よくぶつかった上司。もう1 人は、営業職の“イロハ”から、上司哲学までを授かった上司である。
最初の上司は、決して面倒見が良いとは言えない人だった。そこで私は、入社後1 カ月ほどたったある日、大胆にも「上司を変えてくれ」と会社に掛け合ったのである。1 日でも早く成長して戦力になりたいと考えていたにもかかわらず、今の上司ではそれが望めないと思ったのだ。
それから1 カ月後、私は新しい上司の下についた。新しい上司の部署はいつも成績がよく、人気も高かった。上司がいいと明らかに成績も伸びる。優秀な社員でも、良くない上司の下では潰されたり、腐らされることが多い。
人間関係には必ず「影響の連鎖」が起こる。ダメ上司や愚痴ばかり言っている同僚と一緒にいると、少なからず悪影響を受ける。人生は出会いによって、その質が変わる。人体が、たんぱく質や脂質、ビタミンやミネラル、糖質などから成り立っているように、人格も「良い学び」と「良い言葉」「良い思い込み」によって形成される。それらを与えてくれる素晴らしい人に出会うことは、人生で最も大切なことである。
以前、あるセミナーで経済評論家の勝間和代氏とご一緒した時、彼女の一言がすごく印象に残った。彼女は「今の社会人は大切な仕事を1 つ怠っている。それは上司を選ぶ仕事だ」と言ったのだ。私は大きくうなずいた。
一般的に「上司は選べない」と思われている。しかし、結果的に私も上司を選んでいるし、勝間氏を始め、上司を選んでいる人は少なからずいる。選べないのではなく、選ぶための努力をしていないだけなのだ。より良い上司に出会いたいと思っていれば、自ずと行動につながるものである。
私は2 番目の上司から多くのものを得た。それが今の自分のベースになっているわけだが、実は、最初の上司からも、反面教師としていろいろ学んでいる。その1 つが 「何の説明もせず一方的、高圧的に人を動かそうとしてはならない」ということ。これは何も、無理やり動かそうとすることが悪いと言っているわけではない。そうせざるを得ないのであれば、その必要性や目的をしっかりと伝えなければならないということだ。これは、私が部下を持って以降、常に肝に銘じていることである。
このように、印象がまったく違う上司2 人だが、人間としては両者とも大好きで、今もよく一緒に飲んでいる。
良い上司の第一条件は人を育てるのが好きなこと
私は「上司学」なるプログラムを開発して、上司が部下を育てる重要性を主張しているが、私自身、部下にはかなり厳しいほうだと自負している。私の部下に対するミッションは、できるだけ早く私の元を卒業して、他の部署や会社で通用する人材に育てること。どんな上司に出会っても耐えられるスキルさえ提供したいと思っている。これは私なりの“愛”である。