巻頭インタビュー 私の人材教育論 チャンスを与え失敗を許す風土が イノベーションを生む
創業129年という歴史を誇る沖電気工業(OKI)だが、反面、その古い体質やしがらみに苦しんできた会社でもあった。
篠塚勝正氏が社長に就いた1998年当時、同社は大きな赤字を露呈し、厳しい経営環境に置かれていた。その再建を託されたのが同氏でもあった。
氏は社長就任後、構造改革や若手の積極登用、人材育成と相次いで施策を打ち、名門企業を再生へと導いていく。
そして、役目を果たして会長となった今、科学技術立国・日本をめざし、国全体のイノベーションと技術者育成に取り組んでいる。
モノづくりこそが日本の生きる道
── 昨年まで経済同友会の科学技術・イノベーション立国委員会の委員長として、現在は理科系人材問題検討プロジェクトチームの委員長として、日本の将来を見据えた理科系人材の育成問題に取り組んでいらっしゃいますが、これはどのような問題意識から始まったものなのでしょうか。
篠塚
元々は、日本は今後どういう国になるべきか、そういう議論の中から始まったものです。いろいろな切り口があるかと思いますが、やはり世界で信頼される、頼りにされるような国でありたい。それを実現するには環境問題をはじめ、さまざまな課題を解決していかなければなりませんが、やはり日本の強みを活かした科学技術立国、イノベーション立国としていくことが大事ではないか、という結論になったのです。
文学や哲学の分野で日本が世界に貢献し、信頼される存在になっていけるかといえば、それはなかなか難しい。やはり日本はモノづくり、それも日本らしい、高付加価値を持った、こだわりのあるモノづくりに、今後の生きていく道があるのではないかと考えたわけです。ただモノをつくるだけなら、コストの低い中国やインド、アジア新興国には勝てないわけですから。
── 科学技術立国構想は今後の日本の進むべき方向として、ぜひ国として取り上げてもらいたい構想ですね。国への提言はされているのでしょうか。
篠塚
これまで二度提言を行ってきましたが、政権交代があり、まだ正式に取り上げられるまでには至っていません。ただ、2009年12月末に閣議決定した、民主党政権としての新成長戦略が今後どのように具体化されていくか、というところですね。
── 現在の政権は、総理・副総理とも理系の人間ですから、正式な国家戦略として取り上げてもらいたいところですが、どうすれば科学技術立国を実現できるとお考えですか。
篠塚
科学技術立国の礎となるのは、やはり“人”です。人の育成を通じて実現させていくというのが、我々の結論でもあるわけです。
今年のお正月、お参りに行った伊勢神宮では、20年に1 度、式年遷宮という祭事が行われています。これは内宮・外宮の社殿を20年ごとに造り替えるという大掛かりなもので、そこには神社としてのいくつかの目的があります。
その1 つが宮大工の育成です。宮大工の技術を守り、伝承していくのだそうです。我々が科学技術立国をめざし、世界から信頼される存在にしていくためにも、人を育て、先人の技術やノウハウを伝承していくことが大事なのです。
理系離れではなく大人の理系離し
── 科学技術立国といえば、やはり理系の人材に頼らざるを得ないところがありますが、日本では若者の理系離れが進んでいると言われています。肝心の理系志望者が少なくなっては、科学技術立国の実現もおぼつかなくなってきませんか。
篠塚
そこに大きな課題があることは否定できません。
文部科学省の「学校基本調査」のデータによると、近年、大学の工学部志願者が減少を続けていることが明らかになっています。 工学部志願者数は、ピークだった1992年の約66. 7万人から一貫して減り続け、2005年にはついに約37. 5万人とほぼ半減しました。法学部や経済学部などの文系はもちろん、医学・歯学・薬学・理工などの他の理系学部と比較しても異常とも言える減少率です。これは由々しき問題だと我々は認識しています。
そんな現状を憂慮し、経済同友会の中に結成されたのが理科系人材問題検討プロジェクトチームです。私はその委員長を仰せつかり、若者の理系離れの原因を探り、どうすれば理系人材を増やすことができるのかを研究しているわけです。