連載 現場教育の落とし穴 Vol.5 本来の目的を見失う上司 原点に戻れば物事の本質に気づく
コンサルタントをしていると、クライアント企業の会議に出席する機会が多い。会議の目的は、情報伝達、予算達成度確認、現場教育、やる気の醸成などいろいろだが、業績が芳しくない企業には共通していることがある。それは議論の最中に、本来の目的、議論の原点に戻れる管理職が少ないことだ。
ある消費材メーカーでは毎月、営業所長と、その上司である本社の営業部長が出席して営業所長会議が行われている。各営業所の予算達成に向けた進捗、取り組み、今後の課題などが報告・討議されるが、その会議に連続して出席していると妙なことに気づいた。
ある日の会議で、1人の営業所長が、卸価格を値引きして在庫を削減した由を報告し始めた。しかし実は、前月の会議で「卸価格の値引きを減らす」ことが決定されたはずだった。誰も指摘しないので私は、「前月の取り決めで、荒利率を向上させるために卸価格の値引きを減らすことになっていたのでは?」と口を挟んだ。すると営業所長は「営業担当にそう提案したんですが、在庫削減を優先すべきだという声が多くて……」との返事。その表情は「良いことをしているのに何で文句を言うんだ」と言わんばかりだった。
営業担当の言いなりになる営業所長も営業所長なら、取り決めに従っていないことを指摘しない営業部長も営業部長だ。この会社の各営業所の取り組みを改めて確認すると、前月の取り決めを無視しているケースがあまりにも多かった。これでは何のための取り決めだかわからない。こうした問題が起きるのは、現場の上司が目先の課題ばかりにとらわれ過ぎて、「もともとの目的」「もともとの決めごと」を見失ってしまうためだ。今やるべきことと、やらなくていいことの仕分けができないのである。