企業事例 前川製作所 これまでの最高齢は95歳。 定年ゼロのいきいき職場
産業用冷凍機を中心とするガス圧縮機製造で世界シェア40%を誇る前川製作所。
1970年頃から「仕事に定年はない」と、「定年ゼロ」──60歳で定年だが、ほぼ全員が雇用延長され、その後も活躍し続ける──を実現している。
東京・深川が育んだ下町の職人気質がベースにありながらも会社がシニアに対し、職場で活躍しやすくなる自己変革のきっかけと環境づくりを行っている。
働きたいという意志を周りに承認してもらう
前川製作所は、1924年の創業以来「冷熱技術」を核に、さまざまな事業分野に取り組んできた。産業用冷凍機の分野では世界トップシェアを占め、今や80 の海外拠点を持つグローバル企業である。とはいえ、東京の下町、職人の町でもある江東区深川に誕生した前川製作所には、職人気質ともいうべき企業文化が連綿と受け継がれている。“定年ゼロ”──(区切りとしての定年はあるが、ほぼ全員が雇用延長)はその1 つ。なんと1970年頃から定年ゼロだという。
「職人が集まってできた会社だからでしょう。元気に働ける間は仕事を続けるのが当たり前という考え方が、経営の基本にある」と、63歳で自身もベテラン社員の1 人である人事採用研修グループ理事の榊原裕重氏は話す。
実際の定年年齢は60歳。退職金も支払われる。しかし、定年= 退職と考える社員はいないという。
「定年というより区切り。“定年ゼロ”という呼称も、60歳になったからといって辞める人がほとんどいないことからついたのです」
2010年2 月現在、60歳以上のシニア社員の数は269名。社員の1 割強である。これまでの最高齢はなんと95歳。昨年は初の女性社員が加わり、今後シニア社員が占める割合はさらに増えることが予想される。それだけに、シニア社員の熟練した知識や技術をいかに若い社員に伝承し、融合させていくかは、経営の大きな課題である。
もっとも、定年を迎える社員全員が無条件で仕事を続けるわけではない。まず、本人に勤め続けたいという意思がなければならない。「実際に、約3%は、60歳を機に退職します。田舎で畑仕事をするのを楽しみにしている人もいるし、起業される人もいます」(榊原氏、以下同)。退職は退職でも、こうした前向きな理由でのそれは、シニア社員のサポートをする榊原氏にとって嬉しいことだ。
定年後も同社で働き続けるための、もう1 つの条件は、働きたいという意志を持つシニア社員に対し、周りが同意し、承認するということだ。
「本人が雇用延長を希望しても、ヒアリング(後述)の結果、周りに承認されずに退職してもらうケースも、残念ながら3%程度あります。私の役割の中で最もつらいのが、この事実を伝えることですね」
仲間との関係性を築くための気づきを導く
こうした齟齬を事前になくすため、前川製作所では2 つの支援策を実施している。その1 つが「場所的自己発見研修」。4 人1 組で360度評価の結果を持ち寄り、徹底的に語り合う。1 回の研修に16~20人が参加する。