企業事例 全日本空輸 シニアに専門性を 磨き直すチャンスを提供
シニアがいるだけで、若手は心強さを感じるとANA の生熊氏は語る。
その頼もしさの一因は、シニアの長年の経験に裏打ちされた高い専門スキルだ。
再雇用にあたり専門スキルの有無を最も重視しているという同社では、ANA人財大学が中心となって研修を提供し、メニューを多角的に用意してバックアップしている。
働くシニアの数を着実に増やしている同社の仕組みを紹介する。
全日本空輸(以下ANA)では、2004年の高年齢者雇用安定法改正を受けて、2005年度より雇用延長制度の見直しを実施。雇用延長後の社員活用に向けて制度を整備した。そして2007年には企業内大学「ANA人財大学」を設立し、雇用延長したシニア社員の働き方を支援するための学科──キャリアを考える「教養学科」、スキルを磨く「シニア活躍学科」、さまざまな企画を生み出す「シニア創発室」をスタートした。このうちシニア活躍学科の卒業生17名は、雇用延長後もそれぞれの職場で活躍している。
一般職と担当管理職は専門性を重視
まず、雇用延長を行うための手続きについて、ANA 人財大学主席部員の生熊潤子氏は次のように説明する。
「ANA では経営管理職、担当管理職、一般職で雇用延長にかかわる制度や運用が異なります。弊社には役職定年がありませんので、役職に応じた制度設定および運営になっているのです。そのため、雇用延長の希望を出すタイミングも役職ごとに異なりますが、これも定年までの効果的な業務遂行と、雇用延長後へのスムーズな業務移行を視野に入れているからだといえます。
50代で行う『ライフキャリア研修』は、雇用延長制度の説明に加えてそれぞれのキャリア、ライフプランを考える機会にもなっています。より充実したキャリアを歩んでもらうため、社員1 人ひとりに自律的に考えて決めてもらうことを目的としています」
こうして再雇用の準備をするが、再雇用制度の対象者を選定するにあたり重視するのは専門性──顧客対応や予約業務、乗務員のスケジュール管理、財務、法務などのスキルの有無だという。どこまで専門スキルがあれば、再雇用の対象になるのかといった基準も定められている。この基準の中でも、運航管理者や無線通信士、一等航空整備士などの国家資格を有する人は最も必要とされていると評価され、優先的に延長を認めている。
「一般職でも管理職でも原則、専門性がないと雇用延長できない仕組みになっています」(生熊氏、以下同)
そこで専門性を磨きたい一般職・担当管理職のために用意されているのが「ブラッシュアップ配置」という制度。55歳になるまでの2 ~ 3 年間、「空港勤務」「顧客対応」など、希望の業務に配置され、雇用延長の申請をするまでに、より高い専門性を現場の仕事を通じて養うことができるシステムだ。