My Opinion① 受け身のセカンドキャリアから 自立的セカンドキャリアへ
65歳定年時代が始まった。多くの企業は従来の60歳定年退職の後に再雇用する仕組みを設けているが、これは単なる雇用の引き延ばしであって、シニア活用につながっていない。
シニア活用のポイントについて、JMAM チェンジコンサルティングの小林智明氏は、企業の中の「シニア活用の場づくり」と「働く側の意識改革」の2つを挙げる。意識改革は、60歳の定年直前では遅過ぎる。
役職定年の少し前、50歳前後からその後の20年間のセカンドキャリアを想定し、準備を始める必要性があるという。
「人生二毛作」が今後のスタンダードになるだろう。
現行の再雇用制度が生むアンハッピーな関係
「高年齢者雇用安定法」の改正により、2013年までにすべての企業は65歳までの雇用延長を義務付けられることになった。この法律が改正されたのは2006年で、すでに4 年が経過している。多くの企業は法律に対応した施策を打ち出し始めているが、まだ不十分であり、噴出してきたさまざまな問題に対症療法的に対応している状態にある。試行錯誤しつつ、今後3 年間に形を整えようとしているのだろう。
65歳までの雇用延長の方法として、法律では①定年の引き上げ、②継続雇用制度の導入、③定年制の廃止の3 つを用意している。その中で90%以上の企業が②に含まれる再雇用制度を選択。①と③を選択する企業は、ごく少数に過ぎない。
再雇用が最も妥当な制度であるとして選択されてはいるものの、実際には多くの問題をはらんでいる。再雇用は、60歳あるいはその手前で退職金を受け取って退職した人を再度、雇用する形式であり、退職前とまったく同じ状態の延長ではない。そのため会社側は再雇用の対象者に期待する役割とポジションを提示しなければならない。だが実際には「どのポジションで、どのような仕事をしてもらうか」についてのスタンスが曖昧であり、明確に方針が定まっていない企業が多い。
このような「スタンスの曖昧さ」にこそ問題がある。働く側からすれば、宙ぶらりんの状態に置かれてしまうだろう。一般的に再雇用の前後で何が変わるかというと雇用形態だ。再雇用後は正社員ではなく、ほとんどが契約社員になる。それに伴い給与は、役職者だった人ほど大幅にダウンする。そして、肝心の仕事はといえば、元のままで、多くの場合、部下だった社員が自分の上司になる。
とはいえ勝手のわかる「我が社」の慣れた職場で、ノウハウも心得ているから、仕事はやりやすいはずである。けれども、給料は減るし、年下の上司との人間関係が悩ましく、本人にとっては“面白くない”状況だ。以前のように仕事に打ち込む気にはなれず、「給料が下がった分だけ楽をしよう」と考えるのが人情である。当然、モチベーションが下がれば、パフォーマンスも下がる。
だが実は、会社側もパフォーマンスをそれほど期待していないのではないだろうか。年下の上司も人事部サイドも、自分たちの先輩を邪険に扱うことができないから、対応に非常に気を遣い、どうしても中途半端な仕事の与え方になってしまうだろう。これでは、本人にとっても会社にとっても、あまり幸せな状況とはいえない。結果として、再雇用制度は法令順守のためであって、シニアの人材活用よりもデメリットのほうが目立つのである。
60歳定年という「刷り込み現象」
なぜ、こうした不幸せな状況が起きてくるのか。その根本的な原因として、60歳定年の「刷り込み現象」が災いしているのではないだろうか。今、定年を迎えている人にとって「60歳定年」は常識であり、自明の理である。多くの先輩たちが使命を終えて満足げに去っていく様子を見てきたので、「60歳はサラリーマン人生のゴールである」という思い込みがある。
しかし、社会情勢が急変し、60歳で会社を辞めても年金をもらえなくなり、健康ならば65歳まで働いたほうがいいと勧められるようになった。そうなればなったで、「65歳まで働くのが新しい常識だ」と思い始める。よく言えば従順、悪く言えば依存的。そこには、自分でキャリアを切り開いていくという意識はない。ただ、お金のことには敏感である。「生活が厳しくなるなら、働いたほうがいい」という現実的な判断で、再雇用制度を利用する。制度上の終身雇用はすでに崩壊しているのに、人々の心の中に残っている「内なる終身雇用」は強固なのだ。