TOPIC-② 学習学フォーラムレポート デジタルネイティブ時代には 学びたい人は自由に学び 学ばない人は行き場を失う
5 月8 日(土)、東京・日本教育会館にて「学習学フォーラム2010」が開催された(主催:NPO 学習学協会)。新しいツールや環境を支える技術が次々と台頭するこの時代、「学び」はどうあるべきなのか。
学習提供者は、そして学習する個人はどうあるべきなのか。
本稿は、企業・学校などさまざまなバックグラウンドを持つ識者が集まってのパネルディスカッションを中心に、当日の議論の一部を紹介するものである。
2010年5 月8 日、日本教育会館に集まったのは、約200名の人たち。「リアルとバーチャルが融合」する時代の学びのあり方について模索するという、チャレンジングな議論に興味を示す学校・企業教育関係者が中心である。
当日は本間正人氏(NPO 学習学協会代表理事)をコーディネーターとして、議論が進められた。その模様はUstream*1を使って生中継され、また壇上の後ろの大きなスクリーンには、Twitter の画面が。会場の内外で見ている“参加者”が感想や気づき、問題提起を書き込み(つぶやき)、その画面(タイムライン* 2)がリアルに映し出されており、時折その“つぶやき”を見て、会場での議論の流れが変わることもあった。Twitter 上での議論を「バーチャル」とすれば、「リアル」な会場での議論に、バーチャルな世界での議論が影響を与えたということだ。第1 部では2 名の講演者によるプレゼンテーション、第2 部では、第1 部の講演者を含めた総勢10名でのパネルディスカッションが行われた。本稿では第2 部を中心に、当日の様子をレポートする。
第1 部の講演者の1 人目は、児童向け英語学習教材を開発・提供するMoonshoot Inc. のCEO 加藤幸二氏。自社の英語教材を題材に、リアルとバーチャルを融合させた学習方法の有用性を説いた。絵本と音楽を多用した教材は、パソコンから離れた場所でも子どもたちを楽しく「英語漬け」にすることが可能だ。さらに、英語を使って子どもたち同士がオンラインでつながることができるという。
2 人目には、大前研一氏が責任監修することで知られる「ビジネスブレークスルー(BBT)」のシステムについての紹介に、自身も講師として活躍する炭谷俊樹氏が登壇した。
衛星放送から始まったBBT の講義の配信は、今やオンライン上で受講者が、好きな時に、好きな講師の好きな講義を見ることができる。そこで起こっているのが、講師や講義の人気の寡占化、偏りだという。細分化されたコンテンツを、受講者が自ら選んで視聴しているのだ。この状況から炭谷氏は、学習を提供する講師やベンダー側の質が今後、ますます問われていくことを指摘した。
リアルとバーチャルの定義は重要か?
第2 部は、総勢10名によるパネルディスカッションである。引き続き本間氏をコーディネーターに、第1 部の登壇者である加藤氏と炭谷氏、そして中原淳氏(東京大学准教授)の3 名のコメンテーター、また6 名のパネリスト(写真右)が、「学習のためにどうバーチャルとリアルを融合させるか」というテーマで議論を交わした。
話は、会場の後ろに映し出されたTwitter のつぶやきから、「リアルとバーチャルの定義」についての議論に。ここからは実際の登壇者の発言を織り交ぜながら、当日の議論の流れを紹介しよう。
まず本間氏は中原氏に、バーチャルとリアルの学びの定義を尋ねた。中原氏は「テクノロジーの進展や時代の進展によって変わってくる」としたうえで、「よく学問的に言われるのは、『リアル』は対面の授業であり、『バーチャル』というのがいわゆるオンラインラーニングでパッケージ型のコンテンツのこと」だと整理した。
この確認を受けて、第1 部の発表者である加藤氏や、企業研修会社シェイクの取締役会長、森田英一氏などは、特にリアルとバーチャルを意識していないが、両者を組み合わせることによる学習効果やコミュニケーション活性化には手ごたえを感じていると語った。
森田
「弊社は企業内研修で主に自立型人材の育成に携わっているのですが、人の表情とか、ちょっとした顔色の変化とか、そういうリアルな場で人間性やその人らしさといったものに向き合うということが、人材育成やコミュニケーションには重要だと感じています。そこで、それはリアルで向き合いながら信頼関係をつくったうえで、たとえばスカイプを使ってダイアログ(対話)を行ったり、Twitter でコミュニケーションをとったりといったこともしています。時間と空間を超えるという意味で、コミュニケーションのとり方の幅が広がったなという気がしています」