連載 ベンチャー列伝 第18 回 “ルールある自由な組織”で 社員の人間性を高める
自らを「面白法人」と名乗り、「旅する支社」や「サイコロ給」など、さまざまな面白い制度を設けて実践するカヤック。
そこでは、ただ楽しいだけではなく、1 人ひとりが自身を律して成長するための仕組みづくりがなされていた。
“何をやるか”より“誰とやるか”
その名も「面白法人カヤック」は、鎌倉に本社を置くWeb サイトやサービスを構築する会社である。
代表は3 人。いずれも学生時代の友人である。今回取材したのはCEO の柳澤大輔氏。柳澤氏は、高校時代に現CTO(最高技術責任者)の貝畑政徳氏と、大学時代にはCCO(チーフ・キャラクター・オフィサー、つまりマスコット的存在)の久場智喜氏と出会い意気投合。将来、一緒に仕事ができないかと話し合う。
大学卒業後、3 人はいったん別々の道に。柳澤氏はサラリーマン、貝畑氏は大学院に進学して技術を勉強、久場氏はアメリカへ放浪の旅に出るが、2年後の1998年に再会し、学生時代の誓いの通りカヤックを設立。貝畑氏の「カ」、柳澤氏の「ヤ」、久場氏の「ク」を取って「カヤック」と名付けた。“何をやるか”ということよりも、“起業”という想いを1 つにした仲間がいたことが、出発点となった。
ではその会社で何をするのか。その頃はインターネットの創業期であったこともあり、Web 制作の仕事から事業をスタートしていった。その後、絵の面積で価格が決定する“絵の測り売り”のオンラインショップ「ARTMeter」、音声をネット上に公開・投稿して楽しむコミュニティーサイト「こえ部」など、ユーザー数千~数万人規模のインターネットサービスを幅広く展開していく。現在、Web クリエイターを中心に、100人近い組織にまで成長した。
“どういう人が欲しいか”より“どんな会社か”
一緒に働きたいと思える人材を採用するためには、時代感覚をとらえていなくてはいけないと柳澤氏。確かに「給料が高い」というのは1 つの魅力だろう。しかし、その条件のみに惹かれて集まってくる人材は、本当にいい人材なのだろうか──どういう人を惹きつけたいかで、発信する情報内容を変えていく、そのセンスが今は求められているのだ。
まずは企業側が、自社がどんな会社かを把握しアピールする。そのうえで、どういう人を採りたいかを発信するというのが、柳澤氏が考える人材確保の前提である。その際、カギを握るのが、独自の制度や考え方の公開によるフィルタリング。ここに、人材のマッチングの精度を上げるポイントがある。同社では、給与の一部の配分などから、辞めていった人の退職理由などまで、さまざまな情報を社外にオープンにしていく。それらを判断材料としてもらうためである。
「極論すると、どういう人が欲しいかということは、人を集めるうえであまり関係ありません。多くの場合、欲しい人材というのはどの会社でも同じようなタイプ。それより自分たちがどういう会社であるかということを明確にすることが重要で、それが、応募者が自社に合うかどうかの何よりのフィルターとなるわけです」(柳澤氏、以下同)
公開情報を見たうえで応募してきてくれた人に対しては、面接の機会をできるだけ多く取り、多くの社員と会ってもらう。そうして、一緒に働きたいと思う人を見つけていく。こういうアプローチで採用を行っている。
行動のモノサシとなる7つのKAYACスタイル
公開している情報が、同社の場合、非常にユニークで、かつ独自性がある。その1 つに行動指針「KAYAC スタイル」がある。「社員や組織が行動するうえで一番大切なモノサシ」であり、現在は7 つ。常に精査して、変化させていくものと考えている。
①「何をするか」より「誰とするか」
「誰とするか」にこだわり、チームで物事を進めると「何をするか」も自然と決まる。そして、自分の選択に自信と責任を持つ人と仕事をする。そう覚悟できる人同士であれば、その覚悟にふさわしい関係が築けるということ。
②鎌倉本社と旅する支社