企業事例 コクヨ 現場と本社の協力で 若手を3年で一人前に育てる
総合オフィスサプライヤーのコクヨでは、2004年に事業単位で分社化。
それに伴い2005年に「人材開発部」を新設し、グループ全体の教育の見直しを始めた。
見直しの過程で変更を行ったものの1つが、新人教育の体制である。
それまで、「導入研修」という名で半年から1年もの間、複数の部署を回った後、本配属としていたのを、1 カ月のしっかりとした集合研修ののち本配属とし、その代わり、3 年間は、現場での育成に対しても人材開発部がしっかりとしたフォローを行うことにしたのである。そこには、育成の風土を培う人材開発部の熱意がある。
分社化をきっかけに新人の育成体制を変更
文房具・事務用品の国民的ブランドとして、誰もが子どもの頃から親しんでいる「コクヨ」が、和式帳簿の表紙を製造する“表紙店”として誕生したのは1905年。その後、長い歴史を積み重ねながら事業の拡大・充実を果たしてきた同社が、全事業の分社化を実施したのは、創業100周年を控えた2004年10月のことだ。
分社化の狙いは各事業部門に権限を委譲し、意思決定のスピードを速めること。同社はステーショナリー事業をはじめ、オフィス家具、店舗・オフィスデザイン、オフィス用品の通信販売など、多彩な事業を展開してきた。部門ごとに業務内容や規模、事業戦略が異なるため、各部門がスピーディーに事業を展開していくためには、分社化は不可避だったといえる。
事業部門を切り離した一方で、人事、採用、教育等の間接部門の多くはコクヨ本社が一元的に管理し、効率性を維持することとなった。その中で、グループ全体での計画的な育成を担う部門として「人材開発部」が設立された。
設立を機に教育全般について抜本的な見直しが行われ、新人(若手)教育に関しても2005年春から、新たな形でスタートさせた。この改革について、人材開発部・リーダーの河南悠氏は次のように話す。
「この最大の目的は、入社3 年間でしっかり育てること。社員は皆、最初の3 年間はコクヨ本社に在籍するのですが、その間にしっかりと育成しようということです。
この背景には、2005年当時、若手の離職率が高かったこともあります。年次によっては入社3 年以内で2 割前後の社員が辞めていました。この状況を改善するためにも、教育をしっかり行うことが必要でした」
3年間の新人教育の方針とプログラムのポイント
コクヨが2004年まで実施していた新入社員の導入研修は、半年から1 年ほどかけて複数の部署で業務を体験した後、本配属となるというもの。本配属後は人材開発部の関与はほとんどなくなっていた。
「私も新入社員当時、まず4 カ月ほど営業部に配属されました。こうした業務体験型の研修には、自社のビジネスの全体像を把握できるといったメリットがありますが、その反面デメリットも存在します。現場のリアルな仕事から学びにくいのです。新人を受け入れる現場にとっては、数カ月だけ預かる新入社員はいうなれば“お客様”。本配属の社員のように、しっかり育て上げようという気持ちになりにくく、新人もお客様気分でその数カ月間を過ごしてしまいます」(河南氏、以下同)
これでは研修期間が終わって本配属となっても、現場で戦力として活躍することはできない。しかも配属後の育成は“現場任せ”に陥っていたと河南氏は振り返る。
この反省から、導入研修期間を短縮し、すぐに実際の現場に配属して実務を学ぶ方針に転換した。そして入社後3 年間は人材開発部が責任を持って育成を支援していく体制を整えた。このことで、現場任せから脱却することをめざしたのである。
もう1 つ重要なのは、3 年間の育成のゴールとも言える「一人前の人物像」を明文化し、社内で共有したこと。育成の達成度が客観的に計れるだけでなく、「各現場によって、育ち方がバラバラ」という事態の解消を狙った。
「一人前の人物像」は新入社員自身にとっては成長目標であり、育成を担当する側にとっては育成目標となる。「この目標は『なんとか一通りの仕事ができるようになる』というレベルをかなり上回るものです。もちろん1 年目や2 年目でクリアしてしまう社員もいるでしょうが、少なくとも3 年後までに全員が到達するべき目標であり、育成の指針とも言えます」
河南氏らがこの改革でめざしたものは、以下の3 つである。
(1)早期戦力化
新入社員は全員、1 カ月間の導入研修を終えたらすぐに現場に配属。実務をベースにした育成をスタートする。
(2)本気の育成
2 つの新施策で「本気の育成」を実現する。その1 つは「チューター制度」。新人1 名に対し、 先輩社員1 名が付き、指導・育成を行う。現場に人材育成マインドを浸透させることも大きな目的である。
もう1 つは、「新人の育成を現場任せにしない」という趣旨で導入された「マンツーマンモニタリング」だ。河南氏を中心とする人材開発部メンバーが、年1 ~ 2 回のフォロー面談の他、さまざまな形で、社員1 人ひとりを徹底的にモニタリングしながらフォローしている。