企業事例 三菱重工業 技能訓練とモラル・マナーの教育で 若手のものづくり力を強化
三菱重工業高砂製作所では、現場のものづくり力を強化するため、2004年から教育改革に乗り出した。技能系新入社員の集合教育期間を1年から1年半に延長し、技能実習を充実させた。さらに、ものづくりの品質の担保には技量だけでなく、マインドも大切との思いから、モラル・マナーの向上にも努めている。現場と教育部門が協力して行う取り組みを紹介する。
ものづくり力向上のため教育改革に着手
兵庫県高砂市の臨海地域に位置する三菱重工業高砂製作所(以下、高砂製作所)は、発電用のタービンやポンプなどの製造工場だ。
高砂製作所では、2004年、総務部内に教育推進課を設け、技能職(製品の製造を担当する技能系社員)の教育強化を中心とした教育改革をスタートさせた。そのきっかけの1 つが、全社的な「ものづくり力の低下」に対する危機感だ。2002 年頃より同社では現場管理力の低下に起因する相次ぐ製品トラブルに対して、「ものづくり力を高める教育訓練の強化が必要」という声が強くなっていた。
それを受けて高砂製作所が課題としたのが、教育制度である。それまで高砂製作所では、技能職の教育は、入社時に1 年間、技能訓練生として「技能訓練生教育」を行う他は、現場任せだった。原動機事業本部総務部教育推進課長の柘植雅則氏は、その問題点を次のように語る。「能力要件や教育体系がなかったため、取り組みが場当たり的でした。また現場での実施状況も確認できておらず、職場により取り組みにばらつきがありました」(柘植氏)
こうした制度の問題に加えて、物理的な問題もあった。現場では、育成の中心的な役割を果たすはずの監督職や中堅社員が、採用を抑制した世代に当たり、若手に比べると数が少なかった。
そのため、事業が拡大して仕事が増える中で、若手を指導する余裕がなかったのである。しかも、機械がフル稼働し、製品があふれかえっていたためスペースが確保できず、教えたくても教える場所さえない状態だった。
一方、若い世代のモラルやマナー問題も浮上していた。挨拶ができないといった基本的なことから、教育研修の受講生が受講態度の悪さを講師に指摘されたり、また製造現場からも、「若手のしつけをしっかりして欲しい」といった要望が強かった。
これらの課題に加え、戦略上からも従来の教育の見直しが求められていた。「ここ数年タービン事業が好調で、事業拡大に合わせてものづくり技術・技能の強化が急務となり、事業戦略に合った機動的で体系的な教育が必要でした」(柘植氏)
以上のようなものづくり力の低下、OJT の機能不全、若手のモラル・マナーの問題、事業戦略への適合の必要性から、高砂製作所では、若手技能職の教育強化を中心とした新しい教育制度を整備することとなったのだ。
能力要件を明確にし教育体系を構築
教育制度の整備で最初に取り組んだのが、能力要件の明確化である。それまではOJT が中心だったこともあり、新人、若手、中堅、監督者、管理者といった各階層に求められる能力が明示されていなかった。そこで教育推進課では、各職場にインタビューを行い、ベテラン社員とともに必要な能力を洗い出し、能力要件としてまとめたのである。「これにより、どの能力が不足しているのか、また、その能力を高めるために、どのような教育をすればいいのかという点について、共通の認識を持てるようになりました」(柘植氏)