企業事例 日本旅行 スパルタ研修と現場支援で 新人・若手の“心”を鍛える
若手の育成に手間隙をかけられないのは、今やどこの組織も同じだろう。
だが、導き手も十分にいないまま最前線で戦い続ければ、当然ながら疲弊する新人が多数出てくる。
そこで、1つの明確な答えを提示するのが日本旅行の新人・若手教育だ。
同社ではまず、新人の心を鍛えることに注力。
戦力の基礎となるのは、テクニックではなく“心”だという考えからである。
その骨太な教育方針を取材した。
入社時につくる「折れない心」
「折れない心をつくり、自ら考え、行動できる自律型人材を育成する。これが当社の新人教育のスローガンです」。日本旅行総務人事部主任の加藤浩章氏はこう明快に言い切る。
昔は、上司や先輩が寄ってたかって1 人の若手を育成するだけのゆとりがあった。だが昨今の経済情勢では、現場に人を潤沢に配置できないのは、多くの企業に共通しているところだ。
「育成の時間がなかなか取れない、自分もノルマを抱えており、部下どころではなくなっている、といったマネジメント層の声はよく聞きますね。
また、旅行業界は店頭販売からオンライン販売に重心が移るなど、業界構造そのものが大きく揺らいでいます。それだけに上司に言われたことをそのままやっても、成果にはつながりにくい。現代はいわば正解なき時代。1 人ひとりが自分の解を見つけ、自ら顧客に価値を提供していかなければ、結果は出ません。新人・若手に要求されるミッションは、かつてないほどに難しく、水準が高くなっていると言えます」(加藤氏、以下同)
だが、そんな時代にあって新人たちの間では「ほったらかしにされている」という不満が高まっていたようだ。実際、同社でも長期にわたって、3 年以内の離職率が3 割程度で推移していたという。なんとか人事部で問題解決を図れないか、と考えた末に着手したのが、“折れない心”づくりだった。
OJT 支援はもちろん重要だが、加藤氏らが行ったのは、新入社員自身をまず鍛えておくことだった。
「“折れない心”といってもピンと来ないかもしれませんが、要は自らの価値観を持つ、ということです。状況に流されずにやり抜く力、と言い換えてもいいかもしれません」
最近の新人、特に近年の“ゆとり世代”は一般的にネガティブなイメージを持たれがちだが、実は基本的なスキルは非常に高く優秀。しかしその一方で、潜在的な能力を持っているにもかかわらず、それを出し惜しみしている感も否めないと加藤氏は言う。そんな彼らの持っている良さを引き出すには、“ぶれない価値観”を、早い段階でしっかりと醸成する。そうして基盤を築けば、あとは方向性さえ示せば、全力で取り組める資質が十分あるからだ。だからこそ、同社では読み書きやビジネススキルといった表面上のことはさておき、“折れない心”という土台づくりに傾注したのである。
新人の価値観を変えるスパルタ式研修
同社では、若手を“入社7 年目まで”と定義し、それまでに合計4 回の集合型研修、研修のない年次にはフォロー面談、そして現場支援を主に行っている。そのうち、集合型研修は、入社当初の4 月に実施する「入社時研修」、同年11 ~ 12 月に実施する「フォロー研修」、入社3 年目に行う「3 年目研修」、さらに7 年目に開催する「7 年目研修」だ(図表1)。ちなみに7 年目までこうした教育を行うのは、法人営業部門の担当者が同社で平均的な業績を上げるようになるのが、ほぼ7 年目だからだという。
まず入社してすぐに「入社時研修」として、 約20日間にわたる合宿を行う。カリキュラム内に挨拶や電話応対などの基本スキルを散りばめつつ、特に力を入れているのが、心の筋トレともいえる実習。
「座学ももちろん大事ですが、ビジネススキルは現場の切迫した状況でなければなかなか身につかないもの。新人研修で注力すべきは、むしろ心構えをつくることです」