My Opinion② ビジネスでのマナーも 相手を大切に思う心の表現
「昨今の若い人は礼儀がなっていない」とはよく言われるが、“基本”と言われるビジネスマナーや礼儀作法がなぜ重要か、若手にうまく伝えられるだろうか。
礼儀作法とはそもそも、相手を大切に思う心を伝える手段だからこそ、身につけるべき――そう語るのは、室町時代から礼法を司る小笠原流礼法宗家の小笠原敬承斎氏。
実は本当に大切なのは、「時宜によるべし」――基本を理解したうえで、時に臨機応変に、本当に相手を思って行動することであるという。その真髄を語る。
近年ビジネス界に広がる“ 基本”欠如社員への危機感
私が小笠原流礼法の宗家に就任して、はや14 年が経ち、その間、私どもの教室に通う生徒の世代や性別に変化がありました。以前、生徒のほとんどは女性でしたが、ここ数年、特に夜間の教室では、多くのビジネスパーソンが参加するようになりました。20代の若い人から40 代の管理職の人までおりますが、年齢を問わず、皆、熱心に取り組んでいます。同様に、企業からの依頼で、ビジネスマナーを中心とした研修の指導に当たる機会も年々増え続けています。
この変化は、あらゆるビジネスシーンにおいて、社会人が身につけるべき基本となるマナーを、これまで以上に重要視している結果ではないかと思います。昨今、基本的な振る舞いや心遣いができない方が社内外に急増し、それに対する危機感、問題意識が高まっているのかもしれません。特に若手社員にその傾向が顕著だと聞きますが、実際、私も若い方々の振る舞いが気になることがあります。
たとえば道を歩いている時、車にせよ歩行者にせよ、周りに配慮する気持ちがあまり感じられません。雨の日、水しぶきを上げて走り通る車、歩行者信号が点滅しても、急ぐ気配を見せない歩行者、狭い路地で行き違っても、道を空けた側に感謝する素振りもなかなか見られない……。忙しない社会の中で、他者に配慮するゆとりがなくなっているということでしょう。一方、電車に乗っていると、若い女性が周りを気にせずお化粧をしている姿が散見されます。目的地でどなたかに会うまでにお化粧ができていればよく、その過程で隣り合う多くの人々のことは意識にないように感じられます。
ビジネスシーンで基本的なマナーが身についていない方々は、日常生活においても周りへの配慮が欠けていることが多く、自己中心的な思考に陥りやすい傾向にあると思います。幼い頃からの家庭におけるしつけの低下により、日頃から子どもの「思いやりの心」を育んであげられなかったことに原因の1 つがあるのかもしれません。
身体に染み付いた言葉遣いや振る舞いは、成人になってからでは容易には直せないと言われますが、それは違います。なぜならば、教室に通い始めて3 カ月~半年ほどすると、話し方や振る舞いが見違えるように変わった老若男女の生徒の姿を見てきたからです。つまり、本人の心がけひとつで変えることができるのです。
ただ、挨拶はこうしなければならないと、一辺倒に決められたかたちに無理矢理はめることだけで、若手社員の基本的な教育を行うのは得策だとは思っておりません。もちろん、マニュアルは大切ですが、そればかりを押し付けても、反発や反抗を生むこともありますし、何より想定外のシチュエーションに行き当たった際に、そのような教育では対応できないでしょう。
小笠原流礼法では、それぞれの作法の理由をしっかり理解していただけるよう指導しております。理由を知り、身につけることによって、どのような場面においても自然に振る舞える応用力が養われるのです。