提言 職場の育成力が低下する中で求められる若手教育とは 現場と人事の協働で 基本をじっくりと教える
従来、日本企業の多くは、若手が一人前になるまで現場でじっくりと時間をかけて育ててきた。
しかし、昨今はさまざまな要因から、育成力が低下してきている。
今こそ現場任せではなく、人事と現場が一体となって人材育成の新しい仕組みをつくっていくべきだ。
ゆとり教育のせいにしても問題は解決しない
もともとは子どもの考える力を伸ばすことを目的にスタートした“ゆとり教育”。週休二日制が導入された1992年以降に小学校に入学した世代が一般に「ゆとり世代」と言われ、2008 年以降は新入社員として社会に出てきている。この世代は、基礎学力の低下といった側面ばかりが問題視されるあまり、新入社員教育について論じられる場合もそのほとんどが「ゆとり教育に問題がある」といった論調に終始しがちである。
確かにゆとり世代の若手社員に見られる傾向として、極端に失敗を恐れる、横並び意識が強いといったことが指摘されている。JMAM が毎年行っている採用・新入社員教育担当者へのアンケート(『若手社員に対する問題意識』)でも、「読み書きや考える力の低下」、「主体性(やる気)の不足」、「マナーやモラルの低下」などの基本能力にかかわる項目を挙げる割合が近年急速に高まっていることが見てとれる(図表1)。
だが、ゆとり教育の問題点をあげつらっても問題は解決しない。
こうした問題点が話題になる一方で、ゆとり世代の若手社員には、まじめさや会社に対する愛着心の強さといった良い点も多く見られる。
育成の問題を考えるには、個人の資質や世代の特徴として一括りにするのではなく、教育を行う側も含めて真の問題がどこにあるのかを、まずは探し出す必要がある。そのうえで積極的に対応していく必要があるだろう。日本企業が今まで続けてきたように、将来の会社を支える人材として、これからも新入社員を大切に育てていかなければならないことに変わりはないからだ。
低下した職場の育成力
かつての日本的経営の特徴の1 つに「終身雇用制」がある。これは、高度経済成長下において長期的に事業成長を支えるために出来上がったシステムといえるが、現在でも我が国の多くの企業では、終身雇用制を前提に新卒の定期採用と年次別・階層別の教育を行い、長期的な組織内キャリア開発を前提とした教育体系が構築されている。その中で、教育の柱となるのは、職場におけるさまざまな仕事の経験とローテーションを核とした“実践で学ぶ”OJT と、これを機能させるために“学ぶ力”をつけるOff-JT という、両面からの取り組みだ。長期的なキャリア開発を前提とした教育体系と、それを実現するOJT・Off-JT 両面からの取り組みこそが、日本的経営の強みであり、「職場の人材育成力」の核である。しかし、今、OJT の機能が低下しつつある。今回のテーマである若年次社員の育成も、その土台となるOJT が揺らいでいることが最も大きな原因と言えるだろう。
職場の育成力低下の3つの背景
なぜ、OJT が機能しなくなっているのか? その原因として企業を取り巻く社会情勢の変化を3 つ挙げたい。
①バブル崩壊後に続いた採用抑制
採用の抑制が続いた結果、若手不在の現場が増えている。ある大手メーカーでは「OJT 指導員」として新入社員の指導役を先輩社員が3 年間にわたって務めているが、その指導役の半数近くが30 代後半から40 代の社員であるという。また別の製造現場ではなんと10 年ぶりに新卒を受け入れたという。つまり、後輩の指導経験がないまま中堅社員時代を過ごした人が続々と管理職になっているわけである。果たして、こうした状況で質の高い指導が期待できるものだろうか?
さらに、管理職の業務量が増えている現状では、若手社員とコミュニケーションをとったり、指導したりする時間もままならない。
これにより、これまで日本企業の強みであった、職場における「育成の連鎖」――課長が係長を指導し、係長が中堅を育て、中堅が新人を教育するつながり――が途絶えてしまったのである。