連載 インストラクショナルデザイナーがゆく 第 39回 工場従業員のやる気を上げる 中国式現場育成術
モノづくり大国のお家芸は日本から中国へ移行する?
浜離宮恩賜庭園の豊かな緑と、東京湾が窓いっぱいに広がるホテルの28階にある中華料理店。隣のバーコーナーはワールドカップサッカー中継を楽しむ外国人で盛り上がっている。このうえなくエレガントな雰囲気のこの店で、アートと言ってもいいような美しい料理を目前にして我々が熱く議論しているのは……、なんと「より良いドラム缶工場とは」という、まことにこの場にそぐわない、硬い話である。
我々とは、米国に本社がある工業パッケージ製品のグローバル企業A 社のアジア・パシフィック地区代表をしている中国人W 氏、同社のHRD マネジャーで中国系マレーシア人のK 女史、そして日本人インストラクショナルデザイナーの私、というアジア3 人組。A 社は中国に原材料工場をつくり、そこで生産された中間原料を日本とマレーシアに輸出。両国で組み立て作業を行い、製品はそれぞれの現地企業に販売するという。
このプロジェクトの目玉は、原料を輸出することではない。実は、中国の工場で開発した最新の生産設備、オペレーション技術、さらに中国語版ISO 運用マニュアルを、輸出することにある。モノではなく、優れた技術を中国から「自称技術立国・日本」に導入しようと意気込んでいる。私の役目はと言うと、中国工場のオペレーションのノウハウの調査・分析と、中国語版マニュアルの日本語化・英語化である。「この設備は、今までの10分の1 以下の工場面積で、今まで以上の生産量が可能になった、画期的なエコ装置なんですよ」と胸を張るW 氏。
えーっ、日本は高品質の生産設備と運転技術を提供する国、中国は安くて豊富な労働力を提供する国、というのがお約束じゃなかったっけ?
私のしかめっ面に気づいたW 氏いわく、「日本人にはモノづくりのDNA がある。中国人にはビジネスのDNA がある。いいモノをつくるのは日本人の得意ワザと言われてきたが、儲かるモノをつくるのは中国人のほうがうまい」……すっ、すごい自信だ!
それにひきかえ、このところ日本人の元気のなさといったら!