連載 調査データファイル 第102回 『東北地域のものづくり中小企業の雇用促進に関する調査』より 技術立国復活をめざす 人材の確保と育成(後編)
前号では、『東北地域のものづくり中小企業の雇用促進に関する調査』のデータを使用し、採用する企業と求職者の間にある距離と現場に技術革新をもたらす人材の不足について言及した。
今号では、その調査の過程で知った「元気のあるものづくり企業」に見受けられる傾向と、一時は経営難に陥りながらもそこから脱出した2 つの企業を紹介しながら技術立国・日本の回復に必要な経営手腕を明らかにする。
1.世界市場における日本の1ものづくりの衰退を懸念
これまで日本の製造業は世界市場で確たる地位を築き、ものづくり大国として日本経済を支えてきた。ところが、最近はこうしたものづくり大国の基盤が揺らぎ始めており、構造改革に向けて相当の努力をしなければ、衰退モードに陥る可能性が高くなってきている。
日本の製造業を苦しい状況に追い込んでいることには、韓国、台湾、中国といった東アジア諸国の急速な台頭が、大きく影響している。半導体や液晶テレビといったエレクトロニクス分野の主戦場においては、韓国のサムスンに圧倒的な差をつけられ、もはや挽回不可能といった状況にある。
さらに、ウォークマンをはじめとした独創的な製品で新たな市場を開拓してきたかつての勢いが見られず、米アップル社などに主役の座を奪われている。最近市場に投入されたiPad は、爆発的な売れ行きを示しているが、斬新な商品コンセプトもさることながら、内部に使用されている部品構成が明らかにされると、「日本のものづくりは大丈夫だろうか?」といった気持ちに襲われる。iPad の内部に装てんされた部品のメーカー構成を見ると、ほとんどが韓国製であり、日本製部品はごく少数組み込まれているに過ぎないからである。
画期的な新製品を生み出せない、利益が出せないといった日本の製造業の現状を打破するためには、経営戦略を再構築し、人材育成を大幅に強化する必要がある。だが、日本の製造業が実践してきたのは、量産品のコストカットを目的として、派遣労働者をはじめとした非正規社員を大量投入し、人材育成にあまり努力しないというものであった。
2.元気なものづくり中小企業に共通する特徴
前回紹介した『東北地域のものづくり中小企業の雇用促進に関する調査』(財団法人東北産業活性化センター)を見ると、この不況下でも順調な経営を続けている企業が存在している。筆者はその経営実態をヒアリング調査する機会を得たが、元気なものづくり中小企業に共通していた特徴は次の点である。
①量産品に過度に依存しない
②好況末期には大規模な設備投資をしない
③不況期には従業員の教育訓練に多くの時間を割いている
価格競争に巻き込まれやすい量産品は、人件費をいくら削減しても、中国、台湾、韓国といった国に対抗できる可能性は極めて小さい。新潟県燕市や三条市にある金属加工メーカーの経営者の話によれば、中国から入ってくる同じような製品は、品質や性能が日本製品の7 ~ 8 割といったレベルであるが、価格は半分以下だという。