講演録 HR戦略総合セミナー2010 HRは「管理」から「戦略」へ HR領域全体の視点から 採用と育成のあり方を考える
2010 年6 月、HR 戦略総合セミナー2010 が東京と大阪で開催された。
約50 のテーマによるセミナーと特別講演、パネルディスカッション等によって、HR 部門を総合的に考える人事担当者・経営者のためのイベントである。
その中から、HR プロ代表取締役・寺澤康介氏による「2011 年度新卒採用総括セミナー」と慶應義塾大学SFC 研究所上席所員・高橋俊介氏による特別講演をレポートする。
2011年度新卒採用戦線・中間総括
「新卒採用の質的変化と提言」
HR プロ 代表取締役
寺澤 康介氏
2011 年度の新卒就職活動状況を指して、「就職氷河期」という言葉がマスメディア等に散見される。講演の冒頭、HRプロ代表取締役の寺澤康介氏はこの言葉に疑問を呈した。大卒求人倍率を見てみると、2011年は1.28。かつて「氷河期」とされた0.99 倍(2000年)ほどの落ち込みではない。しかも、求人総数は2000年の約40万7800人に比べ、2011年は約58万1900人と、約1.4倍の規模である。(リクルートワークス研究所調べ)。
こうした現状を踏まえ、HR プロは日本の主要上場企業、未上場の企業の採用担当者を対象としたアンケートと、就職活動中の2010 年度卒業予定の大学生、大学院生に対するアンケート(楽天 『みんなの就職活動日記』で実施)を実施。講演では、その結果を紹介しつつ、新卒採用の質的変化とそれに対する提言がなされた。
まず、上記の調査から2011 年度新卒採用の特徴を見てみたい。「2011 年度新卒採用の特徴は、学生の量より質を重視し、ターゲットを絞って採用する流れが顕著になっていることです。大学の進学率が2009 年に50% を超え、学生のレベルが平均して下がり、“大学生”だからといって均等に扱えない。また、企業側に入社後に育てる余裕がないというのも現状です」(寺澤氏、以下同)
さらに、インターネットによる就職活動が一般化したことによる母集団の増加も影響が大きい。「プレエントリー数の増減」の調査結果を見ると、企業規模の大小を問わず昨年対比で増加。企業規模が大きいほどプレエントリー数は増大している。
この結果、企業側は絞り込みに苦労し、大手志向の傾向が強い学生の多くは、大手人気企業に落ち続けることで就職活動に対するモチベーションを低下させてしまう。有名ではない中小企業には目がいかず、求人募集をかけても学生が集まらないといった二極化の状況に陥っているのだ。
この点から、“就職、新卒採用が厳しい”という世間一般の実感も生じているという。
ターゲット採用の実態と課題
そこで各企業が「2011年卒採用の課題」として挙げているのが、ターゲット層への選考である(図表)。
実際に「ターゲット大学の設定、特別の施策実施」の調査では、全体の3分の1 の企業が設定していると答えた。その具体的方法としてのリクルーター制度の有効性も実証された。学生に対する調査で、企業の人事やOB/OG からの研究室訪問を受けた学生のうち、その企業に「応募する」、「検討する」と答え、訪問企業に興味を示した学生は8 割という結果が出ている。
一方で、リクルーター制度を実施しているのは大企業中心という現状も見えてくる。リクルーター制度を「以前から実施している」「今年度から実施した」企業は、1001 名以上の規模では30% から45% なのに対し、1000 名以下になると20% 以下となった。