COLUMN 新しい採用を生むコーオプ教育 大学時代の継続的なインターンで 気づきを得て成長する
内定者・新人教育を考えるうえで、採用は重要な問題である。本誌では、企業から見た事例を中心に紹介しているが、大学3 年次の長期間を就職活動に割かねばならない大学にとっても、採用は大きな問題である。
ここでは、大学と企業が協力して人材を育成するコーオプ教育をめざす京都産業大学の取り組みを紹介する。
「膨大なエネルギーを費やしながら得るものが少ないのが就職活動」──新卒採用に多額の経費をかけても、優秀な人材が採れないという企業側からも、大学3 年次から就職活動に長期間を割かれる学生側からも、こうした声が漏れ聞こえてくる。
だが、こうした現状を打開するために、新しい試みを始めている大学がある。それが、京都産業大学だ。といっても、就職活動を推奨しているわけではない。
同大学理事の中川正明氏は、「大学でのキャリア教育は、卒業後の40年にわたる仕事人生を豊かに生きる力を身につけるために行うべきだ」と語る。
この考えのもと、同大学では、学生の対人能力や論理的思考、実践的なスキルを高めるために、10年ほど前から、インターンシップや「コーオプ教育(Cooperative Education= 産学連携型の実践的キャリア教育。詳細は後述)」を積極的に取り入れているのである。座学ではなく、より実践的なものから学生が学べるようにしたのだ。
インターンシップと異なるコーオプ教育とは何か
インターンシップとは周知の通り、学業に就いている者が企業や官公庁などで自らの専攻や職業選択に活かすための就労体験のことである。 2007年に文部科学省が行った調査によれば、インターンシップを実施している大学は約68% にも達しているが、期間は1週間から1 カ月という短期が主流だ。
一方、コーオプ教育とは、100年ほど前に北米で始まり、今やアジア、アフリカを含め、広く世界各国で展開されるようになった産学連携教育の1つ。その特徴は、長期、数回におよぶインターシップ。そして育成目標と、それを実現させるプログラムと指導方法も、企業と大学が一緒になって設定し、開発するという点だ。
その一例として、北米で最も一般的なコーオプ教育と言えるカナダのヴィクトリア大学(秋、冬、夏の3 学期制)を紹介する。
まず、1 年次の夏期に夏休みを含めて3 カ月程度の就業体験をする。そして、2 年次の春期、3 年次の秋期・夏期にも就業体験を繰り返し、卒業を控えた4 年次には、そうした就業体験をもとに勉学に集中する。大学卒業後には、就業体験をした企業に約9 割が採用されるという。毎年約2700名がこの制度を利用し、国内外約1200以上の企業でインターンシップを行っている。さらに就業先は、大学での専攻との関連が高いものが多く、就業中は報酬も支払われ、もちろん単位としても認められる。
特筆すべきは、1 年次、2 年次、3年次にそれぞれ企業側から「次の就業体験までに、こういう授業を受け、こういうスキルを身につけるように」と条件が示されること。企業と大学が協力して人材育成をしているわけだ。
カナダやアメリカでも、すべての採用がこうしたやり方で決まるわけではないが、大卒者の就職の約7 割がインターンシップやコーオプで決まっている。それに比べて、日本でコーオプ教育が始まったのは約10年前。企業と大学を結びつける就職環境はまだまだ出来上がっていない。
京都産業大学経営学部の松高政准教授も、「本学でもそうした現況を踏まえて10年ほど前からコーオプ教育に着手しています。今、学生の就職活動のあり方が見直されているものの、産学公の連携は遅々として進んでいないのが実情」と指摘する。
さらに松高氏は、昨年6 月のコーオプ教育の世界大会で、アメリカ、カナダなどの北米、ヨーロッパ諸国、南アフリカなどに加え、韓国、中国、台湾、シンガポールなどのアジア諸国も参加して事例報告などが盛んに行われ、世界各国が熱心に取り組んでいるのを目にし、日本の遅れを痛感したという。「正直、欧米だけでなくアジアも、ここまで進んでいるのかと衝撃を受けました。教育内容のバリエーションも多様で、それなりの成果も上げている。翻って日本では、インターンシップと言えば形ばかりの2 週間程度ですし、ワンデーインターンシップというインターンシップと呼べないような制度が主流。言わば企業説明会に終始しているのが現状です。このままでは、アジア諸国に人材育成の面で明らかに遅れをとります」(松高氏)