企業事例 コーセー 周囲に可愛がられる“ペーペーシップ”を 内定の段階から高める
慌しい新人研修期間に、社会人への意識づけをしっかりと行うのは難しい。
その結果、現場に配属されたあと、リアリティショックに耐えられず、心の病気や離職に追い込まれる若手もいる。だが、コーセーでは内定者教育を充実させ、入社してから周囲に支えてもらい、教えてもらえるような基礎づくりをしている。
合宿や研修などでのあらゆる機会をとらえて人間関係の機微を教え、等身大の自分の姿に気づかせる、同社独自の教育を取材した。
学生から社会人になる際、さまざまな環境変化がある。特に、携帯電話やメールでのやり取りに慣れた現代の若年層にとって、最大の不安の1 つが“人間関係”。職場や関係先でのコミュニケーションはface to face が基本であり、彼・彼女にとっては不慣れなものと言えるのかもしれない。だが、内定期間のうちから人間関係の機微を教え、こうした不安を解消している企業がある。その1 つが、化粧品メーカー大手のコーセーである。
成長を妨げる内定者の“プライド”
「“貴方たちはまだまだ使えない。戦力にならない人材なんだ”。内定期間の教育で最も重要なのは、実はこの現実を教えることではないかと思います」
人事部課長、村松勉氏の説明は、意外な話から始まった。「最近の内定者たちと接していると、学力は以前より上がっている、という印象があります。しかし、問題はIQよりむしろ“EQ”。他人の気持ちを汲み取り、上司や先輩とうまく付き合っていく能力はあまり高くないと思いますね」(村松氏)
コミュニケーション上の問題を生んでいるのは、実は彼らが抱いている“プライド”ではないか――同氏は続ける。「厳しい就職戦線を勝ち抜いてきただけあり、自分には即戦力になるだけの能力が備わっている、という認識を抱く内定者が多いようです。しかし、そのままで社会人になれば、あとで現実とのギャップを痛感することになり、挙句の果てに、メンタルヘルス上の問題を抱えることになりかねません」
実際、配属先からは、今どきの新人に対する違和感も指摘されている。「報・連・相ができない」「新人らしい元気さがない」といったことの他に「人間関係の機微に疎い若手も見受けられる」といった声も目立つという。「実は私自身、つい4 年前まで営業部門の新人教育を担当していたのですが、こうした問題には頭を痛めていました。というのも、当社には、人間関係を大切にする風土があるからです。
上司や先輩に対し、謙虚な姿勢で積極的に教えを請い、可愛がられる人間になることが、仕事を覚える早道だと思います。また営業の場でも、まず相手と親密な信頼関係を築き、その心に入り込むことで、競合先より有利に展開できます。ところが、最近の若手はドライなのか、なかなかそれができないようです。
もう1 つ、若手の間で見受けられるのは、正解の見えない状況で頑張り続けられない、という傾向です。社会に出ると、白黒がはっきり分かれた勉強の世界と決別し、グレーな状況の中でいかに問題解決していくかが問われます。自分の持てる力を出し切って、自分なりの答えをひねり出す訓練ができていないのです」(村松氏)