My Opinion② 選考前教育のススメ。 採用候補者を教育しながら 選抜する「資産蓄積型採用活動」
日本の経済状況から見れば新卒採用は企業の買い手市場のように見えるが、大学全入時代の大学生の資質は、大学生がエリート層だった時代に比べれば相当に低い。
その現状で企業戦略に合った学生の採用を考えると、選考前から学生を育てながら、選抜して内定を出すという、人材育成の前倒しが必要となる。
少子化=大学全入時代で大学生の構造は変化した
景気が低迷し、新卒採用は企業の買い手市場になってきた感があるが、企業側が良い人材を採れると手放しに喜べる状況になったわけではない。なぜなら、大学生自身が以前とは大きく変質してしまったからである。よく言われるのは、大学生の学力低下だ。それは、企業の採用選考の基準に到達しない大学生が増えてきたことを明示し、選考基準を緩めて内定を出す企業では、内定者教育の充実が求められてくる。
しかし、その大学生の学力低下の原因は思わぬところにあり、採用担当者にとって意外な盲点となっている。
人口が増え、消費が拡大し、経済が高度成長している「人口ボーナス」の時代は、多少雑な戦略でも行動が早ければ、企業の成功する確率は高かった。今の中国がその状態である。しかし、日本では2004年をピークに人口が減少に転じ、消費も経済成長も低迷している「人口オーナス」状態に入った。企業はこの現状を前提に、経営戦略や採用戦略を立てなければならないが、そのような認識はまだ薄いようだ。
採用側が刮目すべきは、この少子化時代における大学生の構造変化である。私は採用戦略を語る時、この構造変化を視野に入れなければ今後の雇用戦略は困難になると考える。
大学生は多数派となりその資質は薄くなったこの30 年間で、大学生の構造はどのように変化したのだろうか。
図表1 の通り、1975年当時、18歳の人口は約156万人であった。大学進学者は42万人だったので、大学に進学できたのは4 人に1 人で、大学進学率は26%ということになる。
一方、2008 年に、1 8 歳人口は約124万人まで急減した。約30年で32万人近いマイナスである。ところが大学への進学率は49%に跳ね上がり、結果として大学生の数は61万人に増えている。つまり、18歳の人口は少子化で減っていても、大学生の数は逆に19万人も増えているのである。
高等教育研究者であるマーチン・トロウの著名な分類によると、大学進学率が15%の時代は、大学生は社会的に見てエリート層であり、就職は売り手市場となる。大学生に対する就職支援は不要で、“引く手あまた”の時代ということだ。その後、第二次産業の発展と空洞化を経て、第三次産業の比率が高まり、知的労働のニーズが増えてくると、大学へ進学しなければ待遇のいい仕事に就けなくなるため、大学進学率は上昇する。現在のように大学進学率が50%近い状況は、いわば大学生が社会的に「マス層(多数層)」になってきたことを表している。