人材教育 The Movie ~映画でわかる世界と人~ 最終回 「あゝ声なき友」川西玲子氏 時事・映画評論家
「あゝ声なき友」
1972年 日本 監督:今井 正
長く続いたこの連載も今回(65回目)で最終回を迎える。
記念すべき最終回にどの映画を取り上げるか。調べに調べ、考えに考えたが、なかなか決まらない。そこで視点を変えて、自分にとって本当に大事な映画はどれかと考えた時、すっと浮かんできたのがこの作品である。
渥美清が原作『遺書配達人』に惚れ込み、プロダクションまで設立して製作したもので、主人公の西山民次を自ら演じている。
西山は敗戦1年前の昭和19(1944)年、病気のため中国戦線から日本に送還される際に、全員の遺書を預かった。その後、西山の所属していた部隊は南方で全滅した。
西山も敗戦前に家族が原爆で死亡、闇市に物資を運ぶ担ぎ屋などをしながら、戦後を1人で生きていた。そして旅費を貯めては、各地を回って遺族を捜し続けている。日本が戦後復興を遂げて落ちついていくなか、旅芸人の一座に加わったりマッチの販売をしたり、仕事を転々としながら遺族を捜し続けるのである。