人材教育最前線 プロフェッショナル編 人事制度や育成施策で人は変わる だからこそ常に改善していく
ドラッグストアチェーンを全国に展開するマツモトキヨシホールディングス。厳しい競争環境の中、美と健康の事業分野において「売上高1 兆円企業」をめざし邁進する。
その成長を支えるもののひとつに人材育成施策があり、10 年前から整備に取り組んできたのが小部真吾氏だ。前職までの人事としての実績が評価され、人事課題の解決を託された小部氏は、資格認定制度とそれに連動した育成体系をはじめ、さまざまな改革を推進する。その効果は業績にも表れ、同社の躍進を支える原動力となっている。
人事こそ自分の仕事
大手小売業にて15 年間人事業務に従事し、その後も大手人材サービス会社で人事部門の責任者を務めるなど、人事業務における豊富な経験を持つ小部氏が、その経験と実績を評価され、マツモトキヨシに入社したのは2006 年のことである。
「人事制度の整備をはじめとする人事上の課題解決と、人事に携わる次世代の育成が、入社時の私に求められたミッションでした」
小部氏が人事こそ自らの仕事として認識するようになったのは、大学卒業後に入社した大手小売業でのこと。もっとも入社当時は、当時業界トップだった会社でバイヤーとして活躍することが夢だった。2年間の店舗勤務を経て、人事部門に異動となる。採用業務を2年経験した後、管理職の教育担当として、研修や昇格試験の運営などに携わった。その後も、労政、企画、制度運用など、一通りの人事業務を経験する中で、次第に目標が変わっていったという。
「人事業務を担当し始めて、専門性の高い業務であると分かり、人事としての専門性をより高めていくためにはどうすればいいのかを考えるようになりました。
仕事は楽しかったですね。採用ひとつとっても、一生懸命やれば成果が出る。研修も、受講者から感謝される喜びがあります。そうした達成感を積み重ねていくことで、仕事にやりがいを感じるようになりました」
そうして蓄積してきた専門スキルを発揮する場となったのが、マツモトキヨシである。最初に取り組んだのは、資格制度の整備だった。
「当時は、なぜ賃金が上がったり下がったりするのか、その基準が従業員に理解されていませんでした。そこで、会社が求める資格要件を明確にし、自分の仕事の成果が賃金にどのように反映されるのかが分かる、ガラス張りの仕組みにしました。そうすることで、従業員はどう努力すればいいかが分かるようになります」
また、今でこそ盛んにいわれるようになった「働き方改革」にもいち早く取り組み、業務の繁閑に応じて勤務時間を調整できる変形労働時間制度を導入した。この制度の導入により、柔軟なシフト作成が可能となり、従業員の勤務体制が効率的になった。
育成のためのアセスメント
資格制度の整備にあわせて、育成体系の整備も行った。同社の育成体系は「階層別研修」「職種別研修」「自己啓発」の3 本柱で構成されている。
階層別研修は、各資格要件を満たすために必要な知識・スキルを学ぶためのものである。店長やスーパーバイザーになるために必要なライセンスも設け、それを取得するための研修も整備した。
職種別研修は、ドラッグストアに不可欠な存在である薬剤師、登録販売者、管理栄養士、化粧品担当者などの専門スキルを高めるためのものである。そして自己啓発は、認定資格取得をサポートするものや、eラーニング、通信教育を整備した。
「自己啓発を導入した理由は、人は自ら主体的に取り組もうという意志がなければ、いくら有能でも成長しないという考えからです。また、自己啓発のメニューの中には業務と関係ないものもありますが、これには興味のあるテーマを見つけてもらうことで、生涯にわたって学習することの大切さに気づいてもらう意味もあります」
さらに、資格を認定するためのアセスメントも導入した。管理監督者、管理職、上級管理職にそれぞれ昇格するには、アセスメントを受験して合格する必要がある。