最終回 演出家のいないミュージカル劇団!? 音楽座ミュージカルの クリエイティブな稽古場 藤田将範氏 音楽座ミュージカル 俳優 プロデューサー 他|中原 淳氏 東京大学 大学総合教育研究センター 准教授
今回はミュージカル劇団の稽古場にお邪魔してきました。
観る人が思わずその世界に引きこまれてしまう魅力的なミュージカルはどのようにして創られているのか?
「創造の現場」から見えてきたものとは。
音楽座ミュージカルは1987年の設立以来、数多くのオリジナルミュージカルを提供してきた劇団です。稽古場である東京都町田市の芹ヶ谷スタジオを訪れると、サン=テグジュペリの名作「星の王子さま」を原作とした「リトルプリンス」の舞台稽古が行われていました。
音楽座ミュージカルの特徴は、大きく2つ。1つは、舞台を構成する人々が自ら演出チームをつくっていることです。脚本はもちろん、音楽、振付、美術、照明担当、そして出演者も一緒に演出に関わります。もう1つは毎回、ゼロベースで作品づくりをしていること。同じ作品であっても、脚本や演出をはじめもう一度全部を見直し、前回と同じ舞台を“再演”することはありません。
初代代表・相川レイ子氏が「ワームホールプロジェクト」と名づけたこの創作システムにより常に模索し、変わり続けているところがこの劇団の魅力なのですが、その稽古場は「創造の苦しみ」に満ちた場でもありました。
稽古場は「ダメ出し」の嵐
劇団では2カ月にわたり全国の小学校向けに「リトルプリンス」の公演を行ってきました。しかし、この日は2日後に迫る一般公開公演に向け、演出のてこ入れが行われているとのこと。主役級キャストの降板もありうるといいます。稽古場にはただならぬ緊張感が漂っていました。
まずは大事なプロローグから。舞台中央には砂漠に不時着した飛行機に見立てた箱が積み重ねられ、飛行士と王子が初めて出会うシーンが始まります。
砂漠に投げ出され、不安と絶望の中にいた飛行士の前に突然現れた王子。「ヒツジの絵を描いておくれよ」と呼びかけられて驚き、「誰か他に人はいないのか?」と尋ねる飛行士。王子は質問に答えず、飛行士が持っていた絵を見て「なんだ、ウワバミか」とつぶやく。「今、なんて言ったんだ? 帽子に見えないのか?」と聞き返す飛行士。「ゾウを飲み込んだウワバミ」という王子の言葉に動揺する飛行士……。
ここで「はい、ストップ」と演出チームから声がかかります。演出担当チームのリーダーは飛行士役のベテラン俳優、広田勇二さん。舞台中心にいたのは、ダブルキャストで同じく飛行士役に抜擢された若手俳優、小林啓也さん。この2カ月間、稽古を続けてきたものの、数日前から膝に水が溜まり、歩くのも痛そうな様子で、体調は万全とは程遠い状態。出演への強い意志を見せる小林さんですが、周囲からは容赦ないダメ出しの声が飛びます。
「墜落した砂漠で子どもに出会ったらびっくりするはずじゃない? 衝撃が感じられない」「ウワバミは飛行士しか知らない大切なキーワードだからもっと大事にして」
「足は大丈夫?」と気遣われつつも、あちこちから指摘が飛び交います。「もう一度やってみます」と小林さん。
再度、シーンの冒頭から稽古が始まりますが、またもやストップがかかり、「段取りで演じているだけで心が開いていない」「イメージしている世界が狭い気がする。砂漠の広さが感じられない」など、奥にいた若い俳優やスタッフからも厳しい指摘が続きます。「もう腹くくって、自分を捨てなさい」との言葉に、気丈に演じていた小林さんも悔しさを隠し切れない様子でしたが、このシーンの稽古はここで終了。次のシーンに移りました。
主体的になると効率が良くなる!?
稽古の間に、チーフプロデューサー・石川聖子さん、俳優/プロデューサー・藤田将範さん、小林さんにお話を伺いました。