巻頭インタビュー 私の人材教育論 こうすれば変えられる! お部屋の空気と、組織の空気
独自のエアケア技術や商品ラインナップで新市場を創造してきたエステー。
一時期の業績悪化を脱し、2018 年3月期は過去最高益を見込む。
同社の好調をけん引するのは、創業者の三女で、名物経営者として名高い鈴木喬会長を叔父に持つ鈴木貴子氏である。
当初は社長になることは全く考えていなかったという鈴木氏だが、この5 年間、社員の意識を高めるため、何にどう取り組んできたのだろうか。
3つの求める人材像
―2013年に社長に就任後、17年3月期には増収増益、18年3月期は過去最高益が見込まれ順調です。そうした今、自社の強みや現在の経営戦略を踏まえ、どのような人材が必要とお考えですか。
鈴木
会社として求める人材と、私として「こういう人も採らなければ」と考えている人材像があります。
会社としては、エステーパーソンとしてこうありたい、これを大切にしたい、ということを5項目の「行動規範」にまとめており、それに基づく3つの「求める人物像」も掲げています(図)。
1つめは、自分の頭で考え、自分の足で行動し、世界を巡って挑戦できる人材。2つめは、社内の「凄い」、あるいは自分の中の「凄い」ではなく、世の中の「凄い」を基準に、世にないものを作り出していくことのできる人材。3つめは、広い視野と柔軟な発想を持ち、積極的に周囲の人に働きかける“横のリーダーシップ”がとれる人材です。
一方、私自身が必要と感じるのは、次の経営を担える人材です。もちろん人事もその視点を持ち、一生懸命採用してくれていますが、入社する十数人の中に、実際に社長候補になり得る人がいるのかどうかは、経営側もきちんと見ていないと、次世代のトップは生まれません。
特に、私が掲げる「ブランド価値経営」の概念を理解するには、経営者としての視点が必要です。短期的な成果を上げる、現場にマッチするような人材も大事ですが、長い時間軸でブランド資産を積み上げていく人材も求められるのです。また、当社は常に新しい価値を提案することでお客様を獲得していますので、次に求められる新しい価値を探し、見抜き、形にするセンスが必要です。
加えて、現在の課題として、海外事業の強化があります。グローバルに活躍できる人材が必要ですが、語学よりも、自分の頭で考えてチャンスを捉え、自らの足で赴き、社長のようにビジネスを決めてくる胆力が必要です。そうした資質を見極めるため、私自身が採用選考に関わっています。
―社内の意識改革も進めてこられましたが、当初、社員の皆さんと接してみて、どう感じましたか。
鈴木
私自身は日産自動車やルイヴィトン・グループなどに勤務経験があり、叔父(鈴木喬会長)に言われるまで家業を継ぐことは全く考えていなかったので、当初は社外からエステーを見ていました。2009年ごろ、叔父に、エステー製品の「デザイン革命」を打診され、ぜひ携わりたいと思ったのでデザイン会社を立ち上げ、その立場で社員たちに会ったのが最初です。
その際、エステーの社員たちからは、とてもすがすがしい一体感を感じました。組織に対する忠誠心や仲間への愛情、信頼感が高く、好感を持ちました。こんな会社はなかなかありません。この強みを強化し、風化させないために、先ほどの行動規範も明文化しました。
視野を広げる育成施策
―では、デザイン革命はスムーズに進んだのですね。
鈴木
いえ、最初は苦労しました。当社の製品は、既に機能的価値はとても高かったのですが、機能性をアピールするデザインや仕様になっており、お客様の多くを占める女性が手に取りやすいものではありませんでした。しかし、そこにデザインや香りなどの情緒的価値が加わると、使ってくださる方の愛着が、より高まります。でも、社員たちが自分たちを客観視できないと、改革は進みません。デザイナーさんの力を借りてビジュアルで見せたりしながら、「今まで皆さんがしてきたことは決して間違いではない。だけど、こういう見方もある」という対話を重ねていき、徐々に、受け入れてもらいました。それが徐々に奏功し、今につながっていると思います。