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スペシャル対談 “20世紀的発想”を脱ぎ捨て、 新しい働き方、学び方にシフトしよう
「働き方改革」に取り組む企業が増えている。
働き方の変化は働く人の学びにどのような影響を及ぼすのだろうか。
そして、人事は今、何ができるのだろうか。
日本の人材マネジメント、人材開発研究のトップランナー、中原淳氏と海外における人材開発の潮流に詳しい中原孝子氏による「中原×中原対談」をお送りする。
働き方改革の本来の目的とは
―今の「働き方改革」の流れをどう見ていますか。
中原淳氏(以下淳)
働き方改革は、少子高齢化による労働力不足問題の解消を目的に“、多様で柔軟な働き方ができる社会”の実現を掲げて、2016 年ごろから始まったものです。しかし、今では「めざすべき社会像」に関する議論はあまりなされていません。業務効率化の手法や生産性向上のための会議手法などに注目が集まってきている気がします。
中原孝子氏(以下孝子)
問題は、何をめざすのかが分かりにくいところですよね。長時間労働を是正するためのタイムマネジメント研修が流行っているそうですが、単に時間管理だけの問題なのか。そもそも業務プロセスに問題があるのかもしれないし、リモートワークが認められる風土かどうかなども関わっている気がします。部下を早く帰宅させるため、上司の管理業務が増えて困っている、といった本末転倒な話も聞きます。
淳
手段であるはずの長時間労働是正が、「目的」になってしまっているのでは。本来は「長時間労働是正の、その先」にある未来―柔軟な働き方を許容できる職場や、従業員エンゲージメントの向上など―が語られなくてはならないのだと思います。
孝子
まさに。海外の方からは「日本企業は、最終的な目的がよく見えないまま働き方改革を進めているようだ」と不思議がられます。そもそも「時間で働く」という概念自体にも違和感があるようですね。
淳
工場労働であれば、「時間で働く」でいいと思うのですが、今は全産業の75%がサービス業。時間よりも、どれだけ思考し、新しいものを生み出せるかどうかが、競争優位につながるのではないでしょうか。
―確かに、現状の「働き方改革」は長時間労働にメスを入れることが目的になってしまっているようですが、今後、学び方にはどのような影響があると思いますか。
淳
僕は学びという観点から長時間労働はどんどん是正するべき、と思っています。仕事を終えた後、学校に行く、本を読む、あるいは人と会うなどして学び直しの時間をつくることは重要です。今後、仕事人生が長期化する以上、そこをサバイブするスキル、知識を高める必要がありますから。これからのビジネスパーソンは、「長時間労働」ではなくて「長期間労働」にいかに向き合うかを考えねばなりません。
孝子
「人生100 年時代」といわれますからね。
淳
ただ、働く時間が減るにつれ、組織内の人材育成の時間は取りづらくなっている、という話も耳にします。確かにこの2、3年で、土日の企業研修はずいぶん減った印象がありますね。長時間の研修のかわりに、2、3時間の短いものが増えている。
孝子
今は効率よく学習する方法がいろいろありますからね。例えばインターネットを使い、いつでもどこでも数分で学べる「マイクロラーニング」が注目を浴びています。
淳
テレカンファレンスも増えました。先日もある会社で管理職研修を行いましたが、東京で100 名程度の方々にワークショップを行い、それを名古屋、大阪、仙台にライブ中継しました。これからの研修は、さらにテクノロジーを駆使したものになっていくでしょう。講師もテクノロジーの知識、eファシリテーションスキルを高めていく必要があります。
プロフィール

中原 淳(Jun Nakahara)氏
東京大学大学総合教育研究センター准教授。著書に『職場学習論』『経営学習論』『活躍する組織人の探求』『研修開発入門』『駆け出しマネジャーの成長論』など多数。
Blog:http://www.nakaharalab.net/blog/
Twitter ID:nakaharajun
中原孝子(Koko Nakahara)氏
インストラクショナルデザイン代表取締役/ ATDインターナショナルメンバーネットワークジャパン 理事(副代表)。岩手大学卒業。米コーネル大学大学院に学び、シティバンク、マイクロソフトなどを経て、インストラクショナルデザイン設立。
取材・文/井上 佐保子 写真/大崎 えりや
Illustration by Creative Stall/Shutterstock.com