人材教育最前線 プロフェッショナル編 もどかしさも迷いも糧になる 多様な人材を支える“等身大の共感力”
国内のインターネットビジネスにおける老舗ともいえるエキサイトで、人事部門のリーダーを務める高橋直美氏。
今に至るきっかけは、系列の人材サービス会社からの出向だった。
自身が若い頃に経験した、職場での試行錯誤やキャリアに対する迷い。
それは今の職場のコアである30歳前後の社員たちや、マネジメント層に対する共感力につながっている。
バックグラウンドの異なる人々の集団で、コミュニケーションを重視する人事の取り組みや施策は、共感から生まれたものだった。
新たな環境で得た気づき
インターネット黎明期の1997 年から、日本のI T市場を支えてきたエキサイト。現在ではポータルにとどまらず、オリジナルコンテンツやサービスの開発に力を入れる。その範囲はビジネスユースからエンターテインメントまでと、実に幅広い。
業界内では老舗ともいえる同社だが、それでも社員の平均年齢は30 代前半と、国内企業の中では低めの部類に入るだろう。経営企画室人事・総務セクションでマネジャーを務める高橋直美氏は、同社の印象をこう話す。
「若手が活躍し、自由で個性溢れる雰囲気に最初は驚きました。しかし、過去経験していたトラディショナルな会社とは大きく異なる自由な社風は、刺激的でもありました。社員と話をしてみると、自社のサービスに対する熱量が非常に高く、企画職もエンジニアも営業職も強い想いを持って業務に向かっていることが伝わってきて、非常に触発されました」
大学卒業後、金融系企業に就職。その後、転職した人材サービス会社に在籍中「人事チームが手薄だから、補強したい」という要請を受け、2010 年にエキサイトへ出向した。以降、採用や研修、人事評価制度の整備、また会社の海外展開のための労務の整備等に携わり、4年前にエキサイトに転籍、現在はチームをまとめる立場にある。
社員のおよそ7割が中途入社である組織に身を置く中で、大きな気づきが2つあった。それは、“ 自身に何ができるか”を考えるうえでの重要なヒントになるものだった。
1 つは、「転職者にとって、会社を決めることはスタートに過ぎない」ということだ。
「前職では、人材を求める企業と転職希望者をマッチングする転職支援をずっと担ってきました。転職者の気持ちに寄り添い“、転職”という人生のビッグイベントがよい決断となるよう、できる限りのことはしてきたつもりですが、転職することをゴールにしていたような気がします。しかし実際は、新しい職場で過ごす時間のほうがずっと長いのです。転職後、いかに職場になじみ活躍するかというのが重要だと、今の立場になって特に感じるようになりました」
そしてもう1 つの気づきは、「多様な人材の集合は、革新的であると同時に相互不理解が起こりやすい」ということである。同社ではコンテンツ制作の大半を外注せず、企画から立ち上げまでを一貫して内部で行う。つまり、企画職、エンジニア職、営業職が共存している状態だ。さらに前述の通り、中途入社者が多数を占めるうえ、近年では約半数いる女性社員のうち、3割がワーキングマザーである。加えて親会社や系列企業からの出向者も少なくない。
「多様な人がいるからこそ、今までにない企画を世に送り出せるということは強みですが、一方で、ひとつの事柄に対してさまざまな意見が出てくるので、それを調整するという難しさもあります」
過去に勤めていた職場は、今とは対照的だった。新卒で入社した金融系企業は、社員のほぼ全員がプロパーであり、総合職で入社すれば大半が営業部門に配属される。共通認識が得られやすく、誰かが「つう」と言えば、それは「かあ」だとみんなが納得できた。
だがエキサイトはそうではない。「自分の常識は他人の非常識」になる場合もあり、他者への理解と尊重、そして少しの気遣いが必要な環境だと高橋氏は思っている。
意思疎通の齟齬を減らしたい
2つの気づきに対し、高橋氏が感じたのは、コミュニケーションが重要な役割を果たすということだ。