ATDの風 HR Global Wind from ATD <第9回> ラーニング・ファシリテーションの潮流
米国で発足した人材・組織開発の専門組織ATD(タレント開発協会)の
日本支部ATD-IMNJが、テーマ別にグローバルトレンドを紹介します。
私たちは2013年10月にATD-IMNJの活動の一環として「ラーニング・ファシリテーション研究会」を立ち上げた。当研究会では、ATDがめざす科学的教育の考え方にのっとり、研修の場におけるラーニング・ファシリテーションとは何かを整理し、ファシリテーション力の向上のため相互研鑽している。今回はラーニング・ファシリテーションを取り巻くアメリカの現状、日本における可能性について考えたい。
■ラーニング・ファシリテーションとは
1.プロセス・ファシリテーションとラーニング・ファシリテーション
日本ファシリテーション協会によれば、ファシリテーション(facilitation)とは、人々の活動を支援し、うまくことが運ぶように舵取りすることをいう。集団による問題解決、アイデア創造、教育、学習など、あらゆる知識創造活動を助け、促進していく活動を指して使う言葉である。そうした支援や促進の役割を担う人をファシリテーターと呼ぶ。
ビジネスの場ではファシリテーションの目的とは合意形成や相互理解の促進である、と考える人が多く、「ファシリテーターはプロセスを管理し、コンテンツに関しては中立であるべき」といわれる。この種のファシリテーションを「プロセス・ファシリテーション」と呼ぶ。
これに対し、教育や学習の世界におけるファシリテーション、すなわち「ラーニング・ファシリテーション」とは、学習プロセスを適切に導き、学習自体をたやすくすることである。ラーニング・ファシリテーションでは、学習領域についてファシリテーターが十分な知識と経験を有し、自らの経験や事例などを学習者と共有することで、学習効果を高める。コンテンツにも深く関わるところが、プロセス・ファシリテーションとは大きく異なるわけだ。
2.講師・プレゼンターの変化
伝統的なトレーナーは、自分の専門性に焦点を当て、その専門性に基づいて場をコントロールすることで「指導」を行ってきた。しかし、昨今のトレーナーは、学習者に焦点を当て、学習の手助けにフォーカスする。専門性のみに頼ることなく、「グループの中で起こる相互作用を通じて変化のプロセスを生み出すことで、学びに到達させる」という考え方が主流になりつつある。
実際、ATDのセッションに参加すると、ラーニング・ファシリテーションは①社会構成主義、②成人学習理論、③加速学習という3つの理論を前提に成り立っていることに気づく(図1)。
「社会構成主義」とは、「全ての知識や意味は、相互作用を通じて生み出される」という考え方である。教師からの一方的な知識の伝達ではなく、教師と受講生、受講生同士の対話が重視される。
「成人学習理論」は、「成人の学習は経験が基盤であり、学習へのレディネス(習得・学習に必要な条件や環境が整っている状態)が重要で、特徴に合わせた学習プログラムとすべきだ」という考え方である。