第45回 プロアスリート 為末 大さんと考える 長期化する仕事人生を 生き抜く方法 為末 大氏|中原 淳氏 東京大学 大学総合教育研究センター 准教授
長期化する仕事人生を生き抜くために、どう転機を乗り越えていけばいいのか。
『仕事人生のリセットボタン―転機のレッスン』(筑摩書房)で、対談を重ねた為末大氏と共に転機の乗り越え方を考える。
なりふり構わない自分に戻れない
中原:
為末さんと本をつくることになったきっかけは、雑誌の対談企画でした。為末さんが高校時代に競技種目を100m走からハードルに転向した、というお話を伺い、「よくそんなに早い段階でリセットボタンを押せましたね」という話になって。仕事人生が長くなる中、右肩上がりのエスカレーターのような人生を歩む人は減り、仕事上の大きな転機を迎える人が増えています。具体的には、仕事人生の途中で転職などを考えることが、より一般的になってきました。だからこそ、アスリートである為末さんに、転機のリセットボタンの押し方について学べることがあるのでは、ということで始まった企画でした。
為末:
あの本については多くのアスリートから反響がありました。引退後に不安を抱えているからでしょうね。
中原:
会社員が 60 代に迎える定年を若くして迎えるようなものですから、それは不安ですよね。
為末:
社会人の方はセカンドキャリアについて、どんなところに不安を感じているのでしょうか。
中原:
さまざまだとは思いますが、30〜40 代に多いのは「一通り、仕事ができるようになって、会社でもほどほどのポジションにいるものの、今の組織では先が見えてきた。このままでいいのか」という感じでしょうか。
為末:
漠然とした不安を抱えているわけですね。
中原:
僕はこの本の中の、「なりふり構わない自分に戻れない」という為末さんの言葉が印象に残っています。不安がよぎることはあるけれど、辞めたら、年収は100万円下がるかもしれない。家族もいるのに今さら一から始めるのはちょっと、といった悩みを打ち明けてくる人は結構多い。
為末:
特に結果を残してきたアスリートほど、セカンドキャリアでまた一からやり直すのは難しいです。僕もお客様のところに行くと、「為末さん、今、営業やっているんですか」なんて言われたりして、ちょっとやりづらい。でも、セカンドキャリアがうまくいっている人は、みんなそれを乗り越えていますね。
中原:
ビジネスパーソンがアスリートと違うのは、分かりやすい引退のきっかけがないところでしょうか。アスリートの場合は1位、2位と明確に「順位」がつくと思うのです。会社員の仕事はそもそも自分の名前がつくものではないし、評価のものさしも多様です。「同期に比べて昇進が遅れている」といったことはあっても、それを口にすることは、お互い避けていたりしますしね。