おわりに “自分ごと”と“認め合い”が 理念に基づく仕事につながる
大切なのは掲揚ではなく浸透
経営理念は古くから日本企業では重視されてきたものだが、21 世紀に入り「ウェイ」や「ビジョン」という形で理念を再定義する企業が多く登場したことで、改めてその重要性が認識されたといえるだろう。特に近年はダイバーシティへの取り組みや働き方改革が進んでおり、文化も考え方も、働き方も多様な人材が共に働いていくためにも、指針となる理念への関心は高まる一方である。起業されたばかりのベンチャー企業でも、理念を重要視しているケースが少なくない。
首都大学東京の高尾義明教授は「判断のスピードが求められるようになったこと」そして「雇用の在り方が変化したこと」が今、理念に関心が集まっている理由だと説く(OPINION1)。
しかし、本当に必要なのは理念を掲げることではなく、社員が理解し行動に移すほど理念を浸透させることである。そのためにはどうしたらよいのか、識者の意見から、ポイントを振り返ってみる。
POINT1 経営者や上司が語り続ける
経営者が理念に対してどれほど思いを持ち、従業員に語り続けることができているかというのは重要である。いくら立派な理念を掲げていても、経営陣が心から大切にしていると感じられなければ、従業員は理念を軽視するだろう。まずはトップが理念を重視し、その姿勢や考えを皆に示す必要がある。
経営トップだけではなく、幹部層やマネジャー層の影響も大きい。高尾氏は研究により、遠い存在である経営者よりも、直属上司による働きかけのほうが効果があるという結果を得た。例えば仕事上の具体的な場面で、上司が理念に基づいて意思決定をし、それを部下に示す。このような積み重ねにより、理念が企業風土・組織文化として定着していくのだ。