CASE 2 花王 ウェイの浸透が行動を変える! 日々の仕事、未来を考える作業で “共通の想い”を確かめる
国内事業にとどまらず、世界に展開を続ける花王。
グローバル化に対応し、歴史を未来につなげるため、2004 年、「花王ウェイ」を策定した。
常務執行役員の青木寧氏は「浸透には3つの段階がある」と語る。
最終段階「行動が変わること」をめざし、展開する取り組みとは。
●背景 海外展開と原点回帰が契機に
国内最大手の消費財メーカー、花王。石鹸ひとつから事業を興した同社も、現在はおよそ100の国や地域に画期的な製品を多数展開する。創業1887年と長い歴史を持つが、企業理念「花王ウェイ」を掲げたのは2004 年のことである。
歴代の経営者たちはそれぞれの独自の経営哲学を掲げつつ、創業から続く“花王の精神”を受け継いできた。またその精神は、言語化されるまでもなく、日常の業務を通じて社員一人ひとりに自然と備わっていったという。だが2000 年代に入り、理念の必要性が顕在化し始める。常務執行役員で人財開発部門統括の青木寧氏は、背景のひとつにグローバル化の流れがあったと説明する。
「おかげさまで国内では、多くの方々に花王の存在を認めていただけていますが、海外となると話は別です。M&Aで傘下に入った企業も含めて、現地の社員ですら“日本に本社があるメーカー”ということぐらいしか花王のことは分かりません。ですから、当社の存在意義や価値観が伝わる“言葉”が必要だったのです」(青木氏、以下同)
精力的に海外展開を図る中で、ミッション、ビジョンが説明できなくては、相手の理解も進まない。そこで花王のめざす姿を明文化するプロジェクトが立ち上がった。
同じ頃、理念の策定を促すもうひとつの流れがあった。当時の社長である後藤卓也氏主導で行われた、経営史の編纂である。
「2000 年という歴史の節目を迎え、当時の社内では、“原点回帰”がキーワードとなっていました。後藤は、現在の花王の源流をつくりあげた丸田芳郎※をはじめ、歴代経営者が何を考え、何を大切にしてきたのかを知ることは、今後の花王にとって大きな意味を持つはずだ、という思いを持っていました」
そして2003年に完成したのが『絶えざる革新-明日に受けつぐ花王の精神』という書籍(写真)だ。「歴史から学ぶ」という考えから、過去の試行錯誤の歩みや発展のきっかけとなった事例を盛り込んだ。読めば、時代の異なるそれぞれのエピソードを、背骨のように共通の価値観が貫いていることが分かるという。
「経営を振り返ることは、花王という企業が長く存続した理由を探る機会にもつながります。これについては、『絶えざる革新』をまとめた当時の役員が、5つの要因としてまとめています(図1)。長年変わらず大切にし続けてきたものは、理念と呼ぶにふさわしいものでしょう。『花王ウェイ』のベースが、ちょうどその頃つくられたというわけです」
グローバル化と原点回帰、2つの潮流が、「花王ウェイ」の策定につながったのである。
※1971年から19 年間社長を務め、中興の祖とも呼ばれる。化粧品分野への進出などにより、同社を総合トイレタリー・化学メーカーへと押し上げた。