OPINION1 大切なのは、理念に基づいた判断の積み重ね 「理解」「共感」「行動」 理念浸透における“上司”の役割
近年、経営理念を重視する企業が増えている。
しかし、「理念が従業員に浸透しない」と悩む人事担当者が少なくない。
経営理念の浸透を図るうえでは、経営者の役割が重要といわれているが、
首都大学東京の高尾義明教授は、「上司の果たす役割が思いのほか大きい」と指摘する。
そもそも「理念が浸透する」というのはどういう状態を指すのか。
そのためには、どのような施策が有効なのだろうか。
経営理念への関心が高まる
社是、企業理念、経営理念、ミッション、ウェイ……会社によって、呼び名も内容もさまざまな経営理念だが、共通する条件が2つある。1つは、自社の価値観や信条、信念を表していること。もう1つは、公表されていることである。
経営理念はもともと、経営者の継承のために始まったと考えられる。先代が次の経営者に対して、「商売をするうえで、こういうことを忘れるな」と伝える意味合いが大きかった。それが今では、多くの従業員で共有すべきものへと役割が変わってきている。
その背景には、判断のスピードが求められるようになったことがある。例えば、ホテルなどのサービスの現場では、個々の従業員がその場で判断をして、顧客に価値を提供しなければならない。いちいち上に上げて判断を仰ぐ余裕はない。その際に、判断軸として経営理念が共有されていると、提供する価値の質を揃えることができる。
もう1つの背景として、雇用の在り方が変化したことも大きい。長期勤続を前提にしていた時代には、理念を明文化しなくても、経営者の価値観が自然に伝わっていくことが期待できた。しかし、雇用形態が多様化し、転職も当たり前になり、グローバル化によって外国人も増えてきた中で、経営者の頭の中にある価値観を理解しろというのは、時代にはそぐわない。
上場企業などの動きを見ていると、経営理念を策定して公表する会社が明らかに増えている。理念を掲げているからといって、理念を重視した経営を行っているとは限らないが、関心が高まっていることは間違いない。
理念浸透の3つの次元
理念を定めても、従業員に浸透しなければ意味がない。では、どういう状態になれば浸透したと言えるだろうか。大前提として、理念の文言を従業員が知っていることは欠かせない。しかし、言葉として知っているだけでは、浸透しているとは言えない。
理念の浸透は、①理念の内容を認識・理解しているか(認知的理解)、②理念の内容に共感し、それを自分ごととして捉えているか(情緒的共感)、③理念に基づいて行動しているか(行動的関与)という3つの次元で捉えることができる(図1)。ここでいう認知的理解というのは、ただ言葉を知っているだけでなく、人に説明できるくらいに理解していることを指す。
「理解」して「共感」し、それが「行動」に表れるという流れが基本だが、その逆もある。理念に基づく行動をした結果、理念に対する理解や共感が深まることも多い。この3つが互いに影響し合って、理念の浸透が進んでいく。