巻頭インタビュー 私の人材教育論 上から一方的に与える 「教育」は、もういらない。 必要なのは「アンドラゴジー」
2029 年に創業100周年を迎えるポーラ・オルビスホールディングス。国内での安定成長とさらなるブランド展開、海外進出の加速を狙う。
ドラスティックに変わる化粧品業界において次代を担うリーダーをどう生み出すのか。
鈴木郷史社長は、「必要なのは、組織に迎合せず独自のスタイルを貫く“美意識”」と語るが、その真意とは。
前職で本田宗一郎氏から受けた薫陶、自身の歩みから編み出した独自の育成術も熱く説く。
30年後、化粧品がなくなる!?
―前期(2016年12月期)は7期連続の増収増益でした。好調の理由は何でしょうか。
鈴木
2008年のリーマンショック以降の戦略が、今も効いているからでしょう。リーマンショックの際、化粧品市場は出荷ベースで10%シュリンクし、我が社も2009年は5%の減収でした。ただ数字を細かく見ると、スキンケアの数字は落ちていなかった。これは、お客様の、ポーラへの期待を表していると感じました。そこでスキンケア中心のマーケティングに舵を切ったところ、2010年にはグループ全体で増収増益になり、その年11月の上場に、何とか間に合いました。
現在、スキンケアの売り上げはグループ全体の60%に達しています。7 期連続で増収増益となったのも、スキンケアの貢献が大きい。スキンケアビジネスの醍醐味は3 ~ 4カ月に一度、お客様に販売する機会があり、PDCAが早く回せることです。販売機会が5 ~ 10 年に一度しかない車や家と比べると、非常にショートタームです。幸い、PDCAをうまく回すことができて、お客様のリピート率が高まり、営業利益率も高くなりました。
―今年は新・中期経営計画の1年目です。現状の課題は何でしょうか。
鈴木
我が社は2010年に、2020年に向けての長期経営計画を発表しました。2017年~2020年の新・中期経営計画は、長期計画の最終ステージ。新商品がヒットしたり、昨年、新社長が就任し、ポーラの経営陣がうまく機能するなど、今のところ非常にいいスタートを切れたと考えています。
課題を挙げるなら、海外事業でしょうか。海外事業は収益性・成長性とも期待したほどの成果を上げていません。海外で仕事ができる人材をどのように採用、育成するか。多くの企業が同じ悩みを抱えていると思いますが、我が社もそこが課題だと認識しています。
長期的な視点での課題もあります。先ほど、好調の要因といったスキンケア中心のビジネスモデルも、そろそろ見直すべき時期に来ています。
というのも、今から5年後10年後、消費者の意識が今と同じだとは限りませんし、30年、40年後、技術がさらに進歩して、化粧品なしでも肌が一生綺麗なままでいられる時代が来るかもしれない。もともと、ビジネスモデルは目的を達成するための手段です。将来、化粧品以外のビジネスモデルにドラスティックに変えていくことも視野に入れています。
リーダーは組織にカオスを引き起こせ
―ドラスティックに変化する企業において求められるのは、どのような人材でしょうか。
鈴木
今、グループには約3800人の従業員がいますが、全員にこうあってほしいという人材像はありません。むしろ重要なのは、多様な人材を率いる30 ~ 40人のリーダーです。リーダーが優れていれば、3800人をいい形で導けますから。
では、求めているのはどのようなリーダーか。我が社のコーポレートレポートに、リーダーが持っておくべき役員コンピテンシーを定めました(図)。全部で13の項目がありますが、なかでも私が重視しているのは「美意識」です。
ここでいう美意識とは、ファッションにこだわれ、というだけの意味ではありません。美意識とは、考え方にスタイルを持つこと。生活信条や仕事観、人生観に自分のスタイルを持ち、組織に安易に迎合しない。そうしたリーダーが必要です。