人材教育 The Movie ~映画でわかる世界と人~ 第62回 「みかんの丘」川西玲子氏 時事・映画評論家
「みかんの丘」
2013年 エストニア・ジョージア 監督・脚本:ザザ・ウルシャゼ
エストニアとジョージアの合作という珍しい映画である。映画には撮影した土地の空気が映り込む。最初の場面から、コーカサスの空気が流れてくる。これは、バーチャルリアリティでは決して伝えられないものだ。私は昨年、たまたまコーカサス地方を旅行したので、懐かしい気持ちになった。
○敵同士がひとつ屋根の下に
物語の背景はちょっと複雑である。舞台は旧ソ連内、旧グルジア(現在のジョージア)領内にあるアブハジア。旧ソ連崩壊直前から始まっていたアブハジア独立をめぐる紛争は、90年代に入って本格化した。1991年にグルジアが独立を宣言すると、対抗して翌年、アブハジア自治政府も独立を宣言し、軍事衝突が始まったのである。
物語はアブハジア内にあるエストニア人集落で起こる。ほとんどのエストニア人が戦争を避けて帰国する中、せっかく実ったみかんを放置できないマルゴスと、そのみかんを入れる木箱を作るイヴォだけが残っている。