人材教育最前線 プロフェッショナル編 人にフォーカスしたコミュニケーションで 組織の信頼関係を構築する
デジタルコンサルティングとインターネットメディアを主軸に、事業を展開するSpeee。社員は300名を超え、今、勢いに乗るベンチャー企業のひとつである。
経営陣は30代、社員の多くは20代という若い組織で、社員の育成施策を一手に担うのが、社長室HR戦略の森下忍氏だ。現在、認定資格を持つコーチングの専門知識や前職の経験を活かしながら、“気持ちの通う組織づくり”に勤しむ。
そんな森下氏と人事の出会いは、意外なところにあった。
楽しくて成長できなかった
インターネット業界で、急成長の真っ只中にあるのが、Speeeである。2007年創業のベンチャー企業で、ボードメンバーに顔を揃えるのは80 年代生まれ、社員の多くは20 代から30 代だ。そうした中で信頼を寄せられているのが、社長室HR戦略の森下忍氏である。プライベートでは2人の子どもの母親でもあり、社内では“何でも話せる頼りになるお姉さん”として周囲に慕われる。
そんな彼女の現在に至るまでのキャリアも、実にユニークである。
「海外の文化や考え方に触れ、英語を使った仕事をしてみたいという思いに駆られました。そこで、希望と好奇心だけで、香港の航空会社に新卒入社したのです。当時は日本に進出している外資系企業の数は限られていましたし、キャリアウーマンが働く場所というイメージでした。友達の助言もあってチャレンジしたのが、キャビンアテンダントの仕事でした」(森下氏、以下同)
今思えば自分の原点を創る貴重な経験だった。アジアを中心に10 カ国以上の国々から採用されたクルーは、母語も慣習も異なる。しかし、安全で快適なフライトというひとつの目的に向かって最善をくすためには、互いの協力が欠かせない。自国の流儀にこだわっている場合ではないのだ。
「最初のキャリアでダイバーシティの環境に身を置くことができたのは、ラッキーでしたね。そのせいか、今も先入観にとらわれることは滅多にありません」
仕事も順調だった。“ジャンボ”と呼ばれる大型旅客機にも度々搭乗した。ビジネスクラスやファーストクラスでエグゼクティブを接客するのは、刺激的だった。
ところが、入社4年目を迎えた頃、ふと立ち止まる。
「仕事が楽し過ぎたんです。その頃になるとオペレーションは体が勝手に覚えていて、考えなくても動けるようになる。成長の壁が見えないことに、悩むようになりました」
慣れ親しんだ環境に身を置くことに不安を感じ、新たなことにチャレンジしたくなった。そして航空会社を退職し、帰国後は精密加工装置メーカーに就職。初めてのデスクワークに、ワクワクしたという。
目の前に現れたコーチの扉
結婚を機に一度は家庭に入るが、子育てに一段落がついた後、離婚を機に社会復帰を決意。ある日系化学メーカーの役員秘書の職に就いた。そこで外資系企業からやって来た役員の秘書を担当したことが、現在につながる転機となる。
「彼は以前からリーダーシップ強化によるサクセサー育成におけるコーチングの効用を認識していました。ですから、人事部門のトップになると、積極的にコーチングを導入しようとしていました」
役員秘書として忙しい日々を送る中、森下氏はある時突然、役員から「君はコーチに向いているよ」とコーチングを学ぶことを薦められた。
「それで『コーチの資格を取るといい』と言うんです。確かに、クライアントの話を聞き、相手が自ら答えを導くことをサポートするコーチングには、興味はありました。しかし、資格取得とは思いもよらなかったので、何を言い出すのかと思いましたね」