寺田佳子のまなまな 第22 回 センジュ出版 代表取締役 吉満明子さんに聞く 小さくても確かな歩み方
今回の「まなまな」のお相手は、“ひとり出版社”を立ち上げた吉満明子さん。
六畳二間のブックカフェを訪れた人との会話を楽しみながら、
隣接する事務所で書籍の編集やイベント企画を手掛けています。
かつては出版社でバリキャリ編集者として働いていた吉満さんが、
地元の町で出版社をつくった背景には、たくさんの奇跡がありました。
奇跡のようにやってきた1冊
(まっ、まずいっ!)
そう思った時には不覚にも涙が頬をつたっていた。
混み合う通勤電車の中で、不審そうな周りの視線を痛いほど感じながら、それでも読むのをやめられない。それが今回の“まなまな”のお相手、センジュ出版代表取締役の吉満明子さんが発行した本、『ゆめのはいたつにん』だった。
著者の教来石小織(きょうらいせきさおり)さんは、大学卒業後、脚本家をめざしたが、彼にフラれ、がん検診にひっかかり、貯金もない、30 歳バツイチの“不運てんこ盛り”な派遣事務員だった。夢をあきらめた彼女が、再び「人生は美しい」ことに気づき、「誰かのために生きたい」いう想いに揺さぶられ、カンボジアの子どもたちに夢を贈るために「映画を届ける」NPOを立ち上げる。その3年半の軌跡を綴ったノンフィクションが、この1冊である。
主人公は歯がゆいほどに自信がないし、要領も悪い。ただ、「あせらない、あてにしない、あきらめない」の3Aを胸に、モジモジしたり、オロオロしたりしながらも、ぶれずに夢に向かって進む。そのひたむきな姿に、心の奥の「うれし泣きボタン」をキュンと押されたような気分になったのだ。
こんな素敵な本をつくったのは、いったいどんな人なのだろう?
それが知りたくて降り立った北千住。にぎやかな駅前商店街を抜けた静かな路地の一角に、センジュ出版社のブックカフェ「book cafe SENJUPLACE」があった。六畳間に置かれたちゃぶ台の前に私がぎこちなく久しぶりの正座をすると、向かいに座った吉満さんは愛おしそうに本を手に取り、こう呟いた。
「これはセンジュ出版の最初の1冊。ずっと探し求めていた本が、奇跡のように私のところにやって来たんです」
奇跡のように、1冊の本がやって来る?
そう語るのには、わけがあった。
吉満さんは、22 才で出版社に就職してからずっと編集ひと筋。「ふぅ、やっと校了。あ、すぐ次の校了か……」と、息が上がりそうになりながらも、次々と本をつくってきた。やがて管理職になり、初版は何千部、毎月の売上目標はいくら、と数字を追いかける毎日。