第44回 リアル「ドクターX」に聞く フリーランス時代の働き方 筒井冨美氏 麻酔科医|中原 淳氏 東京大学 大学総合教育研究センター 准教授
「私、失敗しないので」の決め台詞が痛快なフリーランス女医の活躍を描いたテレビドラマ「ドクターX ~外科医・大門未知子~」。
実際に、組織に所属せずフリーランスで働く医師は今、増えているという。フリーランスでの現役麻酔科医、筒井冨美氏に話を聞いた。
本フリー、裏フリーという働き方
中原
今、企業、組織に所属しない働き方がじわじわ広がりつつあります。その観点で、専門職である医師のフリーランス化に関しては、麻酔科や産科などで進行していると伺っており、非常に興味を持ってご著書を拝読しました。「フリーランス医師」とはどんな医師なのでしょう。
筒井
同じフリーランスでも、「本フリー」と「裏フリー」があるように思います。「ドクターX」の大門未知子のように、どの病院にも所属しないのが本フリーとすると、同じドラマに登場する加地秀樹のように、大学に所属していながらアルバイトしまくる、という人が裏フリーですね。
中原
裏フリーから始まり、本フリーに入っていく人が多いのですか。
筒井
はい。もともと大学病院の給料はさほど高くありません。「大学病院の肩書はあげるから、アルバイトで副収入を稼いでね」という感じです。そのうち、アルバイトのほうが主になってきて本フリーになるという。
中原
会社勤務をしながら副業していて、それが本業になっていくビジネスパーソンのプロセスと似ているかもしれませんね。ところで、筒井さんは40 代で本フリーになるまで、大学病院の勤務医だったのですか。
筒井
大学病院の他、さまざまな病院に勤務していました。本フリーになったのは、「このまま大学にいても先はないな」と思ったからです。上のポストは空かず、給料は上がらないのに、仕事は増える一方で。
とはいえ、最近はポスト事情も変わっているようです。大学病院も中堅医師を辞めさせないために「病院教授」「臨床教授」といった新たな肩書をつくっていますから。
中原
いろいろな「教授」をつくってプロフェッサーシップを安売りする風潮は大学全般に広がっていて、非常に問題だと思いますね。一般の大学においても「特任教授」「特定教授」と肩書が増えました。ところで、本フリーになると決断された時、不安はなかったのですか。
筒井
最初は「次の病院を探すまでしばらくアルバイトでも」といった気持ちでした。ところが、辞めてみたらあちこちから声がかかり、あっという間に1カ月半くらい先まで予定が埋まってしまったのです。計算してみると、収入も病院勤務以上になり、「これなら就職しなくてもいいかな」と。それが10 年前のことです。
中原
ちょうどその頃、医師不足が社会問題になりましたね。特に産科医は若手がなりたがらないとか。
筒井
重労働なうえにリスクも高いですからね。若手には眼科、皮膚科、精神科が人気です。本来はリスクの高さ、夜勤など勤務の厳しさに応じて報酬を変えるべきだと思うのですが、現状は同じ水準です。そうなると楽なほうに流れますよね。