CASE 3 ロイヤルパークホテル 大切なのは“気づきの感度”と“想像力” 信頼に基づく共有と改善提案で チームの“考える力”を底上げする
東京・日本橋にあるロイヤルパークホテルには、エグゼクティブ層をターゲットとした特別なラウンジがある。
専任のラウンジスタッフたちは、細やかな気配りと、想像の上をいくサービスで、ゲストをもてなす。
おもてなしを支えているのは、チームの“考える習慣”だった。
●前提 “いつもと違う”が引き金に
東京近郊には、2つの空の玄関がある。1つは東京都大田区にある羽田空港、もう1つは千葉県成田市の成田空港だ。2つの空港と都心をつなぐ高速バスターミナルがある箱崎、その地で開業して28 年になるのがロイヤルパークホテルである。
東京証券取引所などオフィス街に近い立地から、ビジネス客に人気がある。また羽田と成田で飛行機を乗り継ぐ間の時間に利用されることも多い。日本橋は東京の下町にあたり、近年は外国人旅行客も増えている。
“ワンランク上のおもてなし”をスローガンに掲げた同ホテルでは、通常のフロア以上に快適さを追求した「エグゼクティブフロア」を用意する。主な客層は、企業経営者など社会的責任のある人たちだ。東京滞在のたびに利用する常連も多く、宿泊客の4割は2泊3日の滞在だという。
エグゼクティブフロアの目玉は、顧客対応に優れた専任スタッフが常駐する専用ラウンジである(写真1)。チェックインなどのフロント業務の他、観光プランの提案やレストランの予約、航空券の手配など、いわゆるコンシェルジュ業務もラウンジスタッフが担う。エグゼクティブラウンジのマネージャーを務める宿泊部フロント課の金子郁美氏によれば、担う役割も業務内容も、多岐にわたるという。
「お客様に快適にお過ごしいただくためのありとあらゆることが対象になります。例えば今朝の話なのですが、ロストバゲージ(飛行機搭乗時に預けた荷物が、紛失すること)に遭ってしまったお客様がいらして、航空会社とのやり取りを、私どもで代わりにお引き受けいたしました」(金子氏、以下同)
コンシェルジュの役割を担うと考えれば、当たり前のように思うかもしれないが、特筆すべきはロストバゲージに遭っていたことを知る経緯である。宿泊客がラウンジスタッフに、事情を訴えてきたわけではないのだ。
「エグゼクティブラウンジは朝食会場になるのですが、今朝はそのお客様が、普段よりも遅めの時間にお見えになりました。そこでお声がけいたしましたところ、航空会社に連絡を入れていたために遅くなったことが判明したのです」
普段と異なる宿泊客の様子から、雑談を通じてニーズを引き出す。マニュアルには書かれていないやり方で、柔軟にサービスを提供できるのは、“考える力”があってのことだ。
●スキル 観察と想像がおもてなしを生む
それぞれの宿泊客に寄り添った気配りのコツは、どこにあるのか。金子氏によると、まず行うことは“顧客の観察”だという。
「お客様のご様子や会話から、豊富な情報が得られます」
ファーストコンタクトでは、荷物の大きさや服装、しぐさや言葉遣い、漂う雰囲気から、宿泊の目的や顧客の心境などをつかむ。土産袋の有無もポイントのひとつだ。
「海外でのお仕事の多い日本人のお客様でも、出発される方と帰国されたばかりの方とでは、表情や口調に違いが出てきます。今後の渡航に向けての緊張感が感じられたり、日本に戻ってきたという安堵感に包まれていたりと、雰囲気もだいぶ変わってきます」