シリーズ 組織開発を追いかける 第3回 「組織開発ワンデイ集中講義@ IN 東京」より③ 事例から学ぶ 組織開発の実際
今、日本企業において「組織開発」に対する関心が高まっている。
いざ組織開発を実践しようとする時、
推進者は、具体的には何をどのように進め、苦心していくのか。
本シリーズは、4月29日に行われた「組織開発ワンデイ集中講義@IN東京」と、
とある講座での実践から、それらを明らかにしようとする試みである。
第3回の本稿では、企業の実践事例をまとめる。組織開発の全体像について講演した中原淳氏(東京大学)と中村和彦氏(南山大学)に続いて、ベーリンガーインゲルハイムジャパンとヤフーの担当者が、対話を重視した自社の取り組みを紹介した。
【組織開発の実践事例1】 対話型 システムコーチング
泰道明夫氏
ベーリンガーインゲルハイムジャパン 人事本部タレントマネジメント部 組織開発グループ マネージャー
ODスキル向上こそ人事の本領
中原先生と中村先生のご講演から、いろいろなタイプの組織開発があるなと改めて感じました。本日はその中でも、対話型組織開発にフォーカスした弊社の取り組みをご紹介します。
多くの企業において人事がいかにビジネスに価値を提供していくかが問われていると思いますが、「人事の価値」を社内で高めていくために、弊社が注力した1つが、組織開発(OD)スキルの向上でした。
各組織を担当する人事ビジネスパートナーのODスキルの向上を目的に、タレントマネジメント部の組織開発グループが、実際に現場の課題を扱って約1年間にわたるトレーニングを実施しました。中原先生にサポートいただいた「OD実践塾」と題した、ODスキル向上のためのアクションラーニングです。
当然、人事ビジネスパートナーが独自にODを実践していけることが最も好ましいのですが、学びを最大化するために、ODノウハウを持ったタレントマネジメント部のメンバーがサポートに適宜入り、企画の段階から手助けをしていきました。
弊社で人事ビジネスパートナーが組織開発を実践するにあたり、そのベースとして大事にしているのがこの5ステップです(図1)。ODを進めていく際には、この5つのステップを行ったり来たりすることもあります。5ステップの中でも、最初のエントリー、エビデンス収集、真因決定までのプロセスは時間をかけて議論をしました。
特に真因決定は、きちんと真因の“芯”を捉えられていないと介入時の効果が低くなるので、議論に議論を重ねて、分析・精査をしました。
組織全体への関与で関係改善
組織の課題抽出の時に弊社がよく使うのが「ケン・ウィルバーの組織変革の4象限」です(図2)。
この右半分の視覚化されやすい部分の課題については、対応されているケースが多いと思います。我々も、目標設定の方法に曖昧さや不公平さがあれば目標設定の内容を、役割分担が曖昧ということであれば職務記述書の記載を細かく修正するサポートを行うこともします。
ただ、左半分の視覚化されにくい内的な部分がOD実践時の大切なポイントでもあります。メンバー同士の関係性や、組織の中の人間関係を丁寧に見ていくのです。
例えば、組織内で一体感を醸成し、組織のパフォーマンスを最大化させるために、メンバー間の関係性向上をめざしてシステムコーチングを実施することがあります。上司と部下で行う一般的な1対1のコーチングに対して、システムコーチングはグループ全体にコーチングを行います。グループ全体を1つのシステムに見立て、そのシステムの中に存在する関係性をつまびらかにし、それをワークさせるべく、ファシリテーターが徹底的に関わっていきます。
ケース①部門Aのビジョン作成 非言語表現で本音を引き出す
以下に具体的な2つの事例を紹介しましょう。
人事の仕事では「組織のビジョン作成をサポートしてほしい」とリクエストを受けることも多いでしょう。今回依頼のあったこの部門でも、メンバーが自身の言葉で語れるビジョンがなかったため、組織の方向性が見えず、部門長が期待するレベルでメンバーの連携が取れていないことが問題となっていました。
そこでまずビジョンをつくり、そのビジョンを使って対話をすることで組織内の関係性を深めていきました。具体的には、5年後になりたい組織の姿を言葉ではなく、ブロック玩具のレゴで表現してもらいます。
レゴを組み立て、そこで表現したかった意味をキーワードで出していきます。そして「視覚会議」という会議手法を活用して、それらのキーワードを含めたビジョンステートメントを仕立て、その後、システムコーチングを行いました。
ビジョンステートメントに対する理解を高めるため、そこに含まれている9つのキーワードを紙に書き出し地面に並べて、参加者に9つの場所に順番に立ってもらいます。そして、それぞれの場所で感じたことを色や音、身体動作で表現してもらい、さらにその理由を言葉でも説明してもらいます。
日常業務とは一味違ったそれらのワークを通じて、メンバーの本音を引き出していきます。そうすることで、普段の思考の枠を超えた発想が出てきたり、「○○さんがそんな考えを持っていたのか」というような、相互理解につながる効果もありました。