おわりに 野球からバレーボールへの転向には 「みっちり」教え、「つながり」をつくる
新卒との育成格差を改めよ
中途採用者に対する教育は、一般的にはあまり注力されていない。新卒入社社員との格差がある状態だ。しかし、その状況を改め、中途採用者こそしっかりと育成しようというのが、本特集のメインメッセージである。
OPINION1の尾形真実哉氏(甲南大学教授、24 ページ)は、まさにその重要性を訴える。氏は、中途採用者の組織適応上の課題を6つに整理し、特に中途がつまずきがちな点として、「アンラーニング」と「中途意識の排除」を挙げた。過去の経験へのプライドや、自分が異質であるという意識が、組織への適応を妨げるのである。
また、仕事で成果を上げるためには、社内での信頼関係や人的ネットワークを築く必要があるにも関わらず、中途採用者は不利な状況にあることを研究で明らかにしている。そして、人的ネットワークの構築のためには、メンターのような適応エージェントの提供と、研修などの実際にネットワークを築く機会の提供、組織に中途を積極的に受け入れる「中途文化」を定着させることが特に大事だと指摘している。
誰が何を知るかを教える
特に「人的ネットワーク」の構築―誰がどの部署にいて何を知っているのかという「Know-Whom」を知る支援をすることが、中途採用者の育成とマネジメントの一番の鍵であるようだ。OPINION2 の小林英夫氏(多摩大学教授、30 ページ)も、「社内の社会関係資本」が重要であり、社内で「弱い紐帯」を結ぶことのできる関係性を築く支援が効果的であるという。「弱い紐帯」とは、毎日ではなく、時に話をするため、新鮮で価値の高い情報が送り合える間柄である。新卒社員は同期に代表される、こうしたつながりを社内で持ちやすい一方、中途社員は持ちづらいということも、小林氏と尾形氏は指摘している。