OPINION3 採用と組織風土の深い関係 “尖った人材”を採用しても 組織は変わらない
昨今では、自社にない視点を取り入れる1つの戦略として、
「異色の人材を採用したい」と、経験者採用が行われている面もある。
しかし、「異色の人材をただ組織に放り込んで、うまくいくはずがない」——と、
約20 年にわたり採用・人事コンサルティングを手掛けてきた樋口弘和氏は語る。
日本における中途採用の難しさと、変わりたい企業が取るべき対応とは。
そもそも中途採用は難しい
7年前、『即戦力は3年もたない』という自著の中で、自社の人材ポートフォリオに合わせて最適な人材を採り、活用することを薦めた。しかし、最近は過去最高の求人倍率にあり、多くの企業が、人材を選べる状況にない。本音では「できれば新卒を」と思いつつも、「今、人が足りなくて困っているのに、2年後に素人が来られても困る。育てるノウハウもない」と、やむを得ず中途採用をしているところも多いのではないだろうか。
「できれば新卒を」の理由を、本誌読者はお分かりだろう。中途採用者の中には、前の会社で身につけた仕事の仕方や常識、考え方などが邪魔をし、転職先の社風になじめない人も少なからずいる。中途採用者の離職理由のほとんどがこれである。
他方、新卒者は色やクセがついていないので変に悩むことがなく、その会社に染まりやすい。そうした違いも踏まえて、採用を考える必要がある。
“経験”の価値が大暴落
そして、最近の中途採用は、「即戦力」というイメージからすると意外に思われるかもしれないが“ 経験重視”から“能力重視”にシフトしてきている。
ひと昔前の中途採用は、「〇〇の担当が必要だから〇〇の経験者を採用する」という形が一般的だった。ところが今では、“経験”の価値が大幅に低下している。もちろん、経験が活きる仕事もある。例えば、給与計算のような業務は、法律に基づくオペレーションなので、専門知識や業務経験が役立つ。しかし、そうした仕事の多くはアウトソース(業務委託)が可能だ。採用コストを考えたら、IT化や外注化したほうが効率的だろう。一方、同じ人事の仕事でも、採用業務などは、経験がなくても数カ月でキャッチアップでき、経験よりも、その人の感性や能力に価値がある。
経験の価値が低下しただけではない。採用する側からすると、経験を持っていることはリスクでもある。例えば、「給与計算を10年続けてきたが、転職を3回している」という人がいたら、私は疑ってかかる。これはあくまで持論だが、同じ職種なのに会社を転々とする人には、不満や問題を抱えている場合が多く、それで頻繁に働く場所を変えているなら、物事を“自責”、自分の責任と考えない人なのではないかと思うのである。そういう人は、別の場所に移っても同じことを繰り返す可能性が高い。そうした人が、日本の中途採用市場には一定数存在するのが現実なのである。
優秀な経験者がいない理由
なお、日本では、外資に比べて、優秀な経験者を採用しづらいという事情もある。というのも、欧米と日本では、採用方法が大きく異なり、欧米は、仕事に対して人を採る「ポジション別採用」が主流だ。ポジションが空いたら、社内・社外の双方に募集をかけ、応募者の中から最適な人を採る。当然、社外より社内、経験がないより経験のあるほうが有利だが、外から人が来るのは当たり前で、応募も多数ある。