OPINION2 伸びしろが小さい理由とは 中途社員の伸び悩みを解消する 社内の“弱い紐帯”の形成
多摩大学経営情報学部教授の小林英夫氏は、
一般企業での経験を元に、人材の成長について研究を進めてきた。
その結果、中途社員に見られる伸び悩みは、
社内ネットワークなどの“紐帯(ちゅうたい)”が不足していることが
影響しているのではないかと指摘する。
中途社員は“伸び悩む”のか
転職市場が活況だ。中途採用は初期教育にかける時間とコストが節約でき、即戦力を期待できるように見えるため、積極的に行う企業もある。
ところが年次が経つにつれ、状況は変わってくる。仕事はこなせるようになるものの、それ以上の成長が鈍化する。“伸び悩む”のである。
私自身、企業で人事を務めていたことがあり、この現象には当時、何度も直面していた。モバイルやインターネットなどの通信事業を手掛ける企業の立ち上げから参画し、組織管理本部長として、人事制度の整備や採用計画などを進めてきた頃だ。
初期は、縁故採用が中心で、加えて公募の中途採用でメンバーを増やしていたが、設立の翌年からは新卒採用を開始し、並行して中途採用を随時行った。1999 年に12人で始めた会社は、10 年後にはおよそ1300人を抱える大企業に。その過程で、中途社員の伸び悩みが課題となっていたのである。
社員の頃はその現象を感覚的に捉えていたが、実際のところはどうなのか―それを調べるため、一般社員を対象に、新卒と中途社員それぞれの人事評価の経年変化を集計し、比較検討を開始した。それが、現在の私の研究テーマにつながっている。
新卒社員特有の同期意識
ここからは、調査より得られた結果をいくつか紹介したい。図1は、入社年数と業績評価の平均推移を、新卒と中途で比較したものである。
双方の評価とも、入社初年度の段階では全社平均以下ではあるが、中途社員のほうが新卒社員よりも高スコアだ。多少なりともキャリアを重ねてきた中途社員のほうが、仕事の勝手が分かる分、社会人経験ゼロの新卒社員よりもスコアが高くなるのは当然といえる。
入社2年目以降を見ると、新卒社員のスコアは順調に上昇している。対する中途社員だが、2年目こそスコアに一定の伸びを見せるものの、変化の幅は小さい。その後は全社平均のあたりをキープし続ける。そして3年目に新卒社員が中途社員にほぼ並ぶと、4年目には新卒が逆転し、7年目には中途を完全に上回る。
この調査は一般社員を対象としており、優秀な中途社員の中には数年で管理職となった人もいる。そのため単純比較はできないことに留意する必要はある。しかし中途社員が伸び悩む傾向にあることは、この結果から客観的に評価できるだろう。
どうしてこのような差が生じるのか。続けて私は「新卒社員と中途社員の成長意識の違い」に着目し、管理職直前の職階にある複数の社員に、インタビュー調査を行った。すると新卒と中途では、次の2つの要素について大まかな傾向が得られた。