巻頭インタビュー 私の人材教育論 働き方が多様化する今こそ 仕事の作法と会話を大事に
「こころを動かす空間づくりのプロフェッショナルであり続ける」。
人と人、人とモノ、人と情報が行き交う空間を創造する丹青社は、
飲食店から病院、ホテル、博物館まで、
幅広い案件の調査・企画、デザイン・設計、
そして、制作・施工、運営を手掛ける。
卓越したセンスや設計技術、
多様な専門家とコラボする“総合力”をどう育んでいるのか。
独自の手法で体験を積ませるという、
同社の育成方針を取材した。
インバウンドを追い風に業績好調
―2017年1月期決算は増収増益でした。好調の要因は何でしょうか。
高橋
当社は店舗等の商業空間、博物館等の文化空間、展示会等のイベント空間と、人が行き交うあらゆる空間づくりの課題解決を事業として展開しています。前期は中期経営計画3カ年度の2年目でしたが、おかげさまで目標を1年前倒しで達成できました。経済状況が全体的に良かったことが追い風になりましたね。中でも、ホテルなどのサービス分野が好調でした。インバウンドの効果でしょう。今期は計画を上方修正して、過去最高益をめざしています。
―従業員数の伸びも好調の要因と言えますか。
高橋
確かに、新入社員は毎年30人以上入社している一方、離職率は低下しているため、人員は自然増です。ただし、売上が伸びているのは、量より質の向上の賜物でしょう。制作部門であれば資格取得に励み、デザイン部門ならばデザイン力を磨くなどして、みんな実力アップに励んでいます。全体に人材の質が底上げされつつある、という実感がありますね。おかげで、一人ひとりが手掛ける案件の規模が大きくなっています。
異分野との交流が人を育てる
―改めて、貴社の人材面での強みとは。
高橋
高い専門性と、それをうまくコラボレーションできる総合力です。社内には博物館を長年手掛けている人間もいれば、飲食店のプロフェッショナルもいる。各分野のエキスパートたちが、分野を越えて刺激し合い、より良いものをつくり出しています。
―社員の皆さんは人事ローテーションによってさまざまな分野を経験し、ネットワークを広げるのでしょうか。
高橋
職種別採用制を採っているうえ、高い専門性を基に何年もかけて1つのプロジェクトに携わる場合もあります。頻度の高いローテーションというよりも、いろいろな意見を取り入れる風土、仕組みが大きく影響しているように思います。今年度には、当社のトップデザイナーを中心に構成したクリエイティブ局を新設しました。各部門横断の中心にあり、全社の知恵とノウハウを縦横に組み合わせることで、連携を強化しました。横串を通すというより、輪でつなぐイメージ。社内では「クリエイティブ・リンク」といっています。
―普段のお仕事の中で、異なる分野の人材が交流する機会はありますか。
高橋
近年は複合的な施設が増え、自然と交流が生まれやすくなっているように思いますね。例えば2013年、東京駅前の中央郵便局跡にできたJPタワーの「KITTE」には、商業施設だけでなく、東京大学との産学連携による博物館が併設されています。このような総合力が求められる空間づくりに携わるにあたっては、異なる畑の人間同士のチームワークが不可欠です。
分野をまたいだ交流という意味では、「社内カンファレンス」が果たす役割も大きいです。お客様への提案内容は、事前に社内でレビューするのですが、その際、違う分野の社員も参加して提案内容を検討します。すると、内容はもちろん、プレゼンのやり方自体も変わっていく。
そもそもプレゼンの手法もさまざまで、例えば資料をびっしり揃えることもあれば、CGや映像を使って短時間で分かりやすく伝える工夫をすることもあります。社内カンファレンスで意見を交換し、違うやり方を知ることで、新しいアプローチを発見するようです。
実は当社は2015年にオフィスを移転しました。以前はビルが2 棟17フロアに分かれており、事業部門が分散していましたが、今回の移転によりワンフロアに集約しました。社員が集まりやすくなったことで、分野をまたいだ交流が頻繁に行われるようになりました。