今週の“読まぬは損”

第206回『異常気象の未来予測』

菊池健司氏 日本能率協会総合研究所 MDB事業本部 エグゼクティブフェロー

菊池健司氏

読書の鬼・菊池健司氏イチオシ 今週の"読まぬは損"
1日1冊の読書を30年以上続けているというマーケティング・データ・バンク(MDB)の菊池健司氏。 「これからの人事・人材開発担当者はビジネスのトレンドを把握しておくべき」と考える菊池氏が、読者の皆様にお勧めしたい書籍を紹介します。

世界一異常気象が発生する国「日本」

気温が40℃を超える状況に段々と珍しさを感じなくなっている今の状況を、皆さまは予想されていただろうか…。

気象庁の発表によれば、2025年夏の日本の平均気温は、これまでの記録を大幅に上回り、統計開始(1898年)以降でもっとも高くなった。
〇気象庁「2025年の梅雨入り・明け及び夏(6~8月)の記録的高温について」2025年9月

ワークマンが2025年5月に発売した、着た瞬間に冷たくなるベスト、“通称”「着る冷凍服」が爆発的に売れているそうだ。

環境省が公開している「2100年の天気予報」を見てみると、そこに出てくる画像には、東京の最高気温は43.3℃、名古屋の最高気温は44.1℃と表示されている。
〇環境省

このままいけば、2100年とは言わず、この未来は高確率で前倒しになるだろう。
「命」にかかわる大きなテーマである。

猛暑に代表される「異常気象」については、日々報道されない日がないほど、日常に定着しつつある。

世界においても、2023年7月27日、国連事務総長であるアントニオ・グテーレス氏が会見において「地球沸騰化」という言葉を使ったことは記憶に新しい。
世界の異常気象への対応、その異常気象を引き起こしている要因である地球沸騰化は大きな社会課題となっている。

ビジネスパーソンは、社会課題を常に理解しておく必要がある。
所属部署に関わらず、今後、異常気象が社会や経済、自社のビジネス環境にどのような影響を与えるのかについてぜひ考察いただきたいと思う。

ということで、今回は「異常気象」について、わかりやすく学べる素晴らしい1冊をご紹介したい。

タイトルは『異常気象の未来予測』。
この分野の専門家であり、メディアにも多数出演されている三重大学大学院生物資源学研究科教授の立花義裕先生による著作である。

本書の構成

本書は、全6章で展開される。
ところどころで専門用語も登場するが、ご心配なく。
立花先生がわかりやすく言葉を置き換えながら解説してくれている。

第1章:日本に集中する異常気象

日本が世界で一番温暖化に敏感でなければならない……その背景等について書かれている。
日本は欧米と比較して温暖化に無関心な方が多いという。私もそう思う。
本章を読むだけでも、なぜ地球温暖化を意識しなければならないかがよくわかる。

第2章:なぜ日本に猛暑が来るのか

章のタイトル通り、今の暑さをもたらしている要因を学ぶことができる。
異常気象は日本付近で始まることが多いという事実はぜひ、知っておきたい。

第3章:地球温暖化による世界全体の水温上昇

オープニングから「えっ」という事実が明かされる。
世界中で海面水温が急上昇しているが、世界でもっとも上昇しているのは日本近海なのだ。
温暖化における海の影響が第3章の終わりにまとめられているので、ぜひ、未来のためにも読んでおきたい。

第4章:なぜ温暖化で豪雨が増えるのか

ゲリラ豪雨、記録的短時間大雨情報……、2025年も突発的な豪雨が日本列島を苦しめている。立花先生が書かれている通り、温暖化するとなぜ豪雨が増えるのか?のメカニズムをきちんと説明できる人は少数派である。私も本書を通して初めて知ったことが多い。
気象災害の物流への影響も描かれているので、ご注目いただきたい。
最近、突然台風がいくつも発生して、日本列島に上陸するような事象も起きているが、本章の内容を理解することで、台風に対する知識もしっかり学ぶことができる。

第5章:温暖化が日本にもたらす冬の異常気象

どうしても猛暑の話題に目が向くのだが、例年、日本列島は豪雪に悩まされる雪国地域も多く存在する。
なぜ豪雪が起こるのか、日本が世界一の豪雪地帯になる可能性、日本から冬がなくならない理由等々、私たちの知的好奇心を掻き立ててくれる「なるほど」話が本章でも展開されている。

第6章:異常気象で私たちの生活はどのように変化するのか

本章にもっとも関心が高い方が多いかもしれない。ぜひじっくりと影響を想像しながらお読みいただきたい。もはや後戻りできない現実を冷静に受け止めながらも、立花先生からの打開策(自助努力でできることも含めて)の提案が展開されている。
一例だが、「猛暑日は学校を休みにする」「生活時間を2時間前倒しする」といった、その気になればすぐに対応できる内容も含め、ぜひ参考にさせていただきたい内容ばかりである。

学校での気候教育の重要性も書かれており、まさにその通りだと思うのだが、ビジネスパーソン向けの気候教育も同様に重要なのでは、と改めて本書を通じて実感している次第である。
最後の異常気象Q&Aからも、興味深い示唆が多く得られる。

「異常気象の未来予測」は間違いなくビジネスパーソン共通の教養

本書は、以下のような項目を意識しながら読み進めた。

  1. 異常気象(猛暑・豪雨・台風・豪雪)等の発生のメカニズムを知る
  2. 気候問題研究の日本の第一人者の持つ危機感について、本書を通じて学ぶ
  3. 未来洞察研修を行うイチ講師として、気候変動によるビジネスシーンへの大きな影響を改めて考える
  4. 個人として、微力ながらも出来ることを考える

気候変動の影響は、言うまでもなく様々な産業にも大きな影響を与えている。
猛暑や気候災害、豪雪といった異常気象の状況を鑑み、自社のビジネスセオリーを変えざるを得ないといった経営者の方々の声も数多く、耳に届いている。

老若男女問わず、異常気象に関心を持つ方が本書を通じて増えていくことを、心より願っている。
もちろん、本連載をお読みの皆様には、すぐにでも手に取ってじっくりと向き合っていただきたい。

立花先生は本書の中で、以下のような言葉を述べられている。
「世論が興味を示さない最先端の科学理論は、どれほど科学的に素晴らしくても、日本人にとってその価値は限りなくゼロに近い」

「異常気象」「気候変動」という重要な分野がどうかそのようなことにならないように……。

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