J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2016年11月号

OPINION1 行きつ戻りつ進展するデジタル化 学校教育の実践から考える デジタルとアナログの活用法

日進月歩の技術革新でタブレットやスマホ等のデジタル機器が身近となり、
学習におけるスピード向上や効率化の面から学校でも活用が模索されている。
だが学びの過程では、いまだにアナログ作業が重視されているのも事実だ。
学習においてデジタルとアナログはどう使い分ければいいのか。
教育方法を研究する藤川大祐氏に、学習におけるデジタル活用の考え方を聞いた。


藤川大祐(ふじかわ だいすけ)氏
千葉大学 教育学部 教授・副学部長

1965 年、東京都生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。
金城学院大学助教授等を経て現職。専門は教育方法論。メディアリテラシーやディベート、アーティストや企業との連携授業など多様な分野の新しい授業づくりに取り組む。主な著書・編著書に『「個を育てる」授業づくり・学級づくり』(学事出版)、『企業とつくる授業』(教育同人社)、『ケータイ世界の子どもたち』(講談社現代新書)、『教科書を飛び出した数学』(丸善出版)など。

[取材・文]=佐藤鼓子 [写真]=藤川氏提供

フローとストックの関係性

2016 年3 月まで、東京都文京区の「タブレット端末を活用したICT(情報通信技術)教育モデル事業」に指定された区立湯島小学校等と共同で、学習場面におけるICTの効果的な活用を研究していた。湯島小学校でも、デジタルとアナログをどう使い分けるかについてかなり議論したが(図1)、現状では「フローにはデジタル、ストックにはアナログが向いている」との結論に落ち着いた。

瞬時に大量の情報を流し、処理する場面(フロー)には、デジタルが向いている。だがその情報は瞬間的に記憶から消えやすい。一方で、授業で学んだことをまとめて振り返る、漢字を覚えるなど(ストック)には、手書きのノートや黒板が役立つ、ということである。

動画や写真を撮影して共有するという点では、デジタルが断然有利だ。学校の教科では、理科実験の再現性や、体育の客観性などで特に効果的な活用が見られた。

理科では、例えば水を模型に流して川の流れ方や土地の削られ方を実験する場合、全く同じ結果を再現するのは難しい。だが動画に残すことで、同じ場面で停止したり、何度も確認したりできる。

球技や跳び箱などの器械運動でも、フィットネススタジオのような鏡がない体育館や運動場で、自らの動作を客観的に見て、細かく修正することが可能になる。

仮想的な時間・空間を共有

デジタルの導入が最近注目されているのは、特別支援教育などの障がいを持つ子どもへの支援や、外国語を母国語とする子どもへの教育など多言語化が求められる場面だ。視覚・聴覚障がい者向けの音声・文字情報の追加は分かりやすい。また知的障がい者向けにも、学校と家庭間の連絡にいわばデジタル連絡帳としての録音機能を使えば便利である。

過疎地で児童・生徒の少ない学校同士をつなぐ授業や、入院中で極度の感染予防が必要な生徒と教師をつなぐなど、遠隔での学習支援にもデジタルは適している。

つまり、時間・空間を共有するバーチャルな場づくりに、デジタルは機能を発揮する。全国展開する企業やグローバル企業などは、拠点をつないで同時にコミュニケーションをとる際、デジタル技術が欠かせないだろう。

ただ意見集約型の授業では、向き、不向きが分かれる。大学の私の授業では、構成や文章を考える、イラストを描く……などと皆で分業し、共同で作業を進めるため、1 人1台のタブレットの準備が必須だ。クラウドを使った同時進行での文字入力はデジタルが向いている。だが、顔を突き合わせて議論し、それぞれが出した意見を1 つにまとめる場合、企業でも付箋を使って模造紙に貼るなど、アナログが今でも大きな意味を持つ。

ICT活用の課題は

■物理的・資金面の制約

デジタル化は、道具として身近に存在し、必要な時に使うことが徹底されているとうまくいく。ネットワーク環境が安定していて、いつでもどこでも特別意識せず、すぐに使えるかどうかがモバイル端末の普及を左右する。資金面も課題だ。学校では授業で1グループに1 台、端末を支給する意義は大いにあるが、1 人1 台、本当に必要かと問われると、現段階での説明は難しい。

デジタル機器を使いこなすには、物理的に持ち歩き、アナログと併用する手間や煩わしさもある。実際、タブレットは場所を取るため、小中学校の狭い机の上で上手に使うには、整理整頓が大切になる。

表示する面積の制約も大きい。スライドを映すスクリーンもデジタル黒板も、授業で使うには小さ過ぎる。スクリーンは黒板の半分ほどの大きさしかない。

黒板は小中学校では、授業時間中に書いたことを消さないのが原則で、授業中に出た意見、知識をストックしていく。学習内容をまとめる模造紙を使った作業も、タブレットでは代わりがきかない。さまざまなソフトが開発されているが、一覧性ではアナログが優位だ。デジタル機器はパーソナルな便利さと引き換えに、面積を犠牲にしていると言わざるを得ない。

■使い勝手の信頼性・心理的負担

デジタル機器が、常に思った通りに動いてくれるのかといえば、今の技術段階では残念ながら疑わしい。コンピューターは素人にはブラックボックスのため、思った通りに動かなかった時の心理的負担が大きい。

一方、紙も一度書いたらコピー&ペーストするようには動かせない、付箋ははがれやすいといった取り扱いの面倒さがある。だがフリーズして進まない、という不安はない。

文字入力に関しては、小中学校では今のところ、デジタル化を推進するのは難しく、手書きに頼らざるを得ない。学習指導要領でタイピングを学ぶ時期を決めていないので当然である。

巷では高齢者向けのパソコン・スマートフォン教室が大人気だが、若者はスマホの使い方を自然と覚える。一方で企業では、若手がスマホに偏り過ぎてPCを使えない問題が散見され、将来はより深刻になる可能性もある。

企業の場合、教育も業務と同様に基本はデジタルを中心に動いていくのではないだろうか。集合研修での模造紙を広げての学習は今後もあるだろうが、成果物をまとめる際のツールはデジタルに移行していくだろう。教員のワークショップでも、顔を合わせたらアナログが中心になるが、作業の準備やネット検索はデジタルを活用している。デジタルで進めることが基本で、途中でデジタル化できない部分に仕方なく、アナログの作業が入る形が今後も続くのではないか。

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