J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2016年08月号

TOPIC 当事者主体のチーム編成から、就労支援講師まで 障害を強みに変える 富士ソフト企画の人材・組織開発

富士ソフトグループの特例子会社である、富士ソフト企画の組織運営は、“健常者が障害者を管理する”ものとは一線を画す。
障害の異なるメンバーでチームを編成し、互いの能力を補完し合うことで、自立的なチーム運営と個々の能力開発に成功している。
「健常者目線の障害者雇用は存在しない――」そう明言する同社の取り組みには、人材開発や適材適所の原点があった。


遠田千穂氏
富士ソフト企画 人材開発部部長 秋葉原営業所所長

富士ソフト企画
1991年設立。名刺作成をはじめとする各種印刷物の制作や、ホームページの制作・更新管理、スポーツイベントで必要な一連の印刷物制作などを展開する。2000年に特例子会社認定を受け、以降、積極的な障害者採用を行う。今回取材した秋葉原営業所では、現在18名の身体、知的、発達、精神それぞれの障害を抱えるスタッフたちが在籍している。

[取材・文・写真]=田邉泰子

障害者雇用の先進モデル

情報通信やセキュリティー、流通など、各分野のソリューション開発からはがき印刷ソフトまでを手掛ける富士ソフトグループ。その特例子会社が、富士ソフト企画である。

同社は2000年に特例子会社の認定を受け、以来、障害者雇用を推進している。グループ7社のサポート業務をはじめ、名刺作成やデータ入力、印刷物の制作など、グループ外向けの事業にも積極的だ。

同社が障害者雇用を始めたきっかけは、元は健常者だった富士ソフト本体の社員が障害者となったことからだという。

「その社員は交通事故で脊髄を損傷し、車いすでの生活を余儀なくされました。しかし、仕事をこなすうえでは身体上のハンディキャップは何の支障もなかった。この時初めて、“障害がある”という、たったそれだけのことで能力の高い人材を活かし損ねている社会の現実に気づいたのです」(人材開発部長・秋葉原営業所所長の遠田千穂氏、以下同)

現在は全国に7つの拠点を構え、全社員のうち9割が障害者である。

採用は中途の場合、主に就労支援施設などで職業訓練を受けている人がハローワークを通じて応募する。新卒採用は、職業訓練や能力開発校などを経て入社する場合が多い。

採用時には求人票の書き方にも工夫を凝らす。募集する職種の仕事の内容を詳細に記し、“どのような”能力が“どの程度”求められているのかを客観的な表現で示して、入社前後のギャップを極力少なくする。

障害を持つ社員の5割強は精神障害に当てはまる。そのうち6割が統合失調症、2割が躁うつ病などの気分障害、てんかん・高次脳機能障害、アスペルガー症候群がそれぞれ1割ずつである(図1)。これは、障害の種類で採用を行うのではなく、同社が求める仕事を行えるかどうかで採用をジャッジするからだという。

「彼らの多くは、学生時代まではそれほど違和感もなく生活ができていて、成績も優秀でした。しかし社会人となり、1社目の企業で入社3年以内にうつ病などを発症するケースがよく見られます」

その後、転職をしては組織に馴染めない状態を繰り返し、紆余曲折の末、障害等級認定を受けた後に、同社の存在を知って入社してくる。

もともと彼らの多くは、仕事に対してまじめに取り組み、緻密で丁寧にこなす。例えば交通費計算などは、健常者以上に素早く正確に行える力のある人もいる。しかし、組織社会特有のファジーな部分や人間関係の構築にうまく適応できず、能力を発揮できずにいたり負担を強いられたりして心身のバランスが崩れてしまったというケースが少なくない。

「障害者雇用というと、身体障害者や知的障害者から採用したいと考える企業の方もいらっしゃいますが、活躍の土台さえ整えれば、精神障害者であろうと問題ありません」

そのため、同社では社員全員をれっきとした戦力として見なす。もちろん一人ひとりに机を与え、パソコンを用意している。

強みを活かし、育て合う

障害者と健常者を分け隔てなく戦力として見なすという姿勢は、組織運営の手法にも現れている。

同社では、どの仕事においてもチームを編成して取り組む。その際、リーダーを務める社員も障害を持ち、メンバーの抱える障害の種類もさまざまだ。なぜ、同じ種類の障害者同士のチームにはしないのか。

「人には誰にでも強みと弱みがあります。それを補い合い、互いのスキルを発揮できるようにするというのがまず1つあります」

例えば、発達障害などで複雑なコミュニケーションをとるのが苦手な社員に対してフォローをするのは、状況や相手の心情など細やかな部分を理解する社員たちの役目である。逆に、体を動かすのに支障のない社員たちは、身体障害の社員の分まで移動を伴う業務をカバーする。

「チーム運営は当事者同士に任せています。障害者の管理は健常者がすべきとは考えていません。機会さえあれば彼らは自ら組織を動かしていきます。最も大切にしているのは、“落ちこぼれをつくらない”ことです。そのためにどうすれば良いのか、チーム全員で考え、行動します」

互いの得手不得手を補完し合うことで、強いパートナーシップが生まれると同時に、人数分以上の成果を生み出す。またそれぞれの特性を組み合わせることで、さらなる効果も生まれる(図2)。

「それぞれの障害をフォローし合っているうちに、自身の障害が改善される場合があります」

例えば、精神障害を持つ社員は不眠の解消や薬の服用量の減少、発達障害の社員はコミュニケーションに慣れて、次第に相手を察する力が芽生えてくる、身体障害の社員は不自由な体の部位の可動域が広がる、知的障害の社員はIQがアップするなどの現象が見られるという。

共に働くことを通じ、互いを受け入れ、フォローし合うことで、個々の能力が向上する――これこそが、人材・組織開発の本来あるべき姿ではないだろうか。

Close Up

強みを活かし合い、育て合うチーム制

同社で働く人たちは、日頃どのような思いで仕事に臨んでいるのだろうか。秋葉原営業所の皆さんに話を聞いた。彼らの主な業務は、親会社である富士ソフトに届く郵便や社内便などの配達物が社員一人ひとりに確実に配られるよう、システムを用いながら管理する仕事である。

■F氏(40代女性)

F氏はこれまで派遣会社に登録して事務業務、あるいは医療事務などの仕事に就いていたが、ある時うつ病を発症した。その後障害等級認定を受けて、富士ソフト企画へ。同社に入社し、今年で4年目を迎える。

「事務の中でも、書類のチェックや大量のデータ入力はあまり得意ではありませんでした」(F氏)

F氏は、富士ソフトの社員たちに配達物を手渡したり、発送物を管理したりなどの役割を担う。

「配置換えや肩書の変更も多いので、座席表だけをあてにしていると、誤配や遅配などの原因にもなります。ですから、社員の顔と名前を一致させておくことがポイントです。その点においては自信があるので、強みを活かせていると思います」(F氏)

同じ職場で長く働き続けられていることは、彼女の自信にもなっている。

「継続の大切さを感じています。今は、“これが自分の仕事だ”という自覚があります」(F氏)

穏やかな表情からは、安心して働けることの喜びが感じられる。

■梅澤健太郎氏(30代男性)

梅澤氏は、強迫性障害を患う。強迫性障害は、「何度手を洗っても手がきれいになった気がしない」「戸締りが気になって、何度も確認してしまう」など、頭では理解していても不安に襲われて同じ行動を何度も繰り返す。その発症原因は、現代の医学ではまだ明らかになっていないという。

新卒でコンピューター会社に就職したが、長くは続かずフリーター生活を余儀なくされる。その後職業訓練を受けて富士ソフト企画に入社し、およそ1年が経つ。

梅澤氏は、富士ソフトグループのシステムに顧客情報を入力する業務や配達業務の仕分けをメインに、今はF氏と共に、同じチームの新入社員の育成係を務める。

同社では、新入社員の育成に、いわゆる「ブラザー・シスター制度」を設けている。新入社員は先輩社員の仕事をフォローし、徐々に仕事の内容や進め方を覚えるのと同時に、先輩社員は社内の設備の使い方や日常の習慣、ルールなどを教える。

「ブラザーを務めるのは初めてですが、まずは環境に慣れてもらうことを意識しています。仕事については自分のやり方を基準に説明し、慣れてきたら一人でこなしてもらったり、他の業務に応用してもらったりしていますね」(梅澤氏)

日頃の業務の種類は決して少なくないが、チームでこなすことを考慮し、仕事が滞ったり他の人に迷惑をかけたりしないような段取りやメンバーへのフォローを欠かさない。そうした細やかさは、梅澤氏ならではの強みだろう。

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