J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2016年04月号

TOPIC KAIKAカンファレンス2016レポート 人の成長と組織の活性化のために これから人事は何をすべきか

人事や人材開発における諸課題の解決をテーマに、
今年も「KAIKAカンファレンス」が開催された。
2014年のリニューアル後、3回目を迎えた今回は、
どのようなプログラムが展開されたのか。
その模様の一部をレポートする。



開催時期:2016 年2 月3 日~ 5 日
会 場:ベルサール八重洲(東京都中央区)
主 催:一般社団法人 日本能率協会

取材・文・写真/[2月4日]瀧川美里[2月5日]井戸沼尚也、菊池壯太

7つのテーマでプログラム展開

「KAIKAカンファレンス」は、日本能率協会(JMA)が1982年から開始した「HRD JAPAN(能力開発総合大会)」が、2014年から新ブランドとしてリニューアルされたもので、今回で3回目の開催となる。

人材育成・組織開発に関する先進企業の実務家による講演やディスカッションを通じて、新たな知見獲得や情報交流を図る場だ。その根底には、「人と組織が自発的に成長し、企業が開花(KAIKA)し、同時に社会も活性化していくために、人事や企業は何をすべきなのか」を明らかにするというコンセプトがある。

2016年は年明けから、世界的な株価の下落やマイナス金利の導入といったビジネス環境の変化が報じられている。先行きの不透明感が募る現代のビジネスシーンにおいて、事業を成功に導くためには、人事や人材開発といった領域はますます重要性を帯びてきている。

そうした現状を踏まえながら、オープニングの塩野義製薬代表取締役社長・手代木功氏の基調講演を皮切りに、人材育成、経営者育成、グローバル、理念共有、組織開発、ダイバーシティ、TOPICSの7つの主要テーマの下、3日間にわたって各プログラムが進められ、来場者数は延べ2541名を数えた。

本稿では、野村證券によるダイバーシティをテーマとしたディスカッション付セッション(2月4日)、経営人材育成に関する三越伊勢丹ホールディングスの事例、そして組織開発についてのディー・エヌ・エーの事例(2月5日)をダイジェストで報告する。

【ディスカッション付セッション】「ダイバーシティ&インクルージョン」女性活躍推進だけでない本当の多様化のためにできること

2月4日(木)

■講演者野村證券人材開発一課エグゼクティブ・ディレクターリーダーシップ&ディベロップメントダイバーシティ&インクルージョン東由紀氏

■コーディネーター中央大学大学院戦略経営研究科教授中島豊氏

日本企業ではダイバーシティというと、女性活躍推進に重点を置かれる場合がまだ多いが、本来は人材一人ひとりの出身国や文化・習慣の違いなども含めてより幅広く捉える必要がある。本セッションでは、その議論を先取りし、今後のダイバーシティ推進の在り方や、多様性を企業の強みとするための人事担当者の役割について掘り下げられた。

新しい価値を創造する

中島 今回、皆さんに投げかけたいテーマは「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)は企業の社会的責任(CSR)を超えるものではないか」ということです。野村證券の事例は、D&Iを通じた新しい価値を創造されています。東さんにご紹介いただきましょう。

 ありがとうございます。まず背景からご説明します。

当社でD&Iへの取り組みが始まったのは2008年。リーマンブラザーズのアジアと欧州部門を継承したことがきっかけで一夜にして各国出身の多様な社員が入ってきたため、D&Iの活動が必要であるという経営判断がなされました。

その時の議論の着眼点は、「なぜダイバーシティに取り組まなければいけないのか」ではなく、「取り組まないリスクは何か」でした。議論の結果、そのリスクとは、当社にとっては「新しい価値を創造できないこと」であると分かりました。

ただ単に職場が多様な状態である、というだけでは、価値の創造にはつながりません。組織内でD&Iを価値に転換する過程には、次の4つのステージがあるでしょう。

最初の段階は、職場には既に多様性が「存在している」こと、またそれは「存在してもいいもの」だと皆が気づくことです。

次に、多様性のある人材と協働して価値を生み出すために必要な知識やスキルとはどのようなものかを多くの人が理解すること。もしくは、マネジャーの立場で、いろいろな価値観を持っている人が集まるチームをマネージして成果につなげるにはどんなスキルが必要なのかを、理解することです。

ここまで進むと、ようやく多様性が生かされる社内風土ができあがり、初めて「ダイバーシティ」が「価値」になります。

では、「価値」とは何か。この中身は企業によって異なりますが、当社では、「国際競争力を高めてグローバルに成長する」ことと、「多様化するお客様のニーズに応える付加価値の高いサービスを提供する」ことの、2つを挙げています。

自発的な活動を促す風土

中島 次に、多様性の管理について見ていきましょう。多様性の管理には、主に2つの段階があると言われます。まず積極登用、アファーマティブ・アクション(AA)です。例えば海外の一部の大学では、全入学者のうち一定の割合を有色人種にするなどの措置を採用しています。2020年までに管理職の30%を女性にするという政府の目標も、AAに近いものかもしれません。

もう1つは、イコール・エンプロイメント・オポチュニティ(EEO)。雇用機会均等という意味で、就職や昇進の時に差別してはいけないということです。企業内での多様性管理のゴールは、主にこのEEOにフォーカスされ、EEOに至るための手段としてAAが必要であると言われます。ところがこれを実現するためには、東さんのお話にあったように、違いに気づいて理解し、行動をとっていく企業風土の管理をしていかなくてはなりません。

以上の整理に基づき、同社の組織風土変革や、企業の力を高めるための動きについてお聞きしましょう。

 野村證券のD&Iのユニークなところは、“社員ネットワーク”に集約されています。社員ネットワークとは、もともとはリーマンブラザーズで活動していた社員のボランティアで運営する組織です。これまで野村證券のD&Iは、このネットワークがリードしてきました。

ネットワークは3つのテーマに分かれており(図1)、1つは女性の活躍推進を行う「ウーマン・イン・ノムラ」、健康・育児・介護をテーマにワークライフマネジメントを推進する「ライフ&ファミリー」、そして文化や世代を超えたコミュニケーションや性的マイノリティー(LGBT)の方への理解を進める「マルチカルチャー・バリュー」があります。

社員ネットワークの最大の特長は、草の根活動がベースになっていることです。基本的には業務外の時間を使って、社員が自主的にテーマを選び、各ネットワークの年間予算内で自由に活動をするという形をとっており、人材開発部は事務局に徹して後方支援をしています。

この草の根活動を徹底することで、人材開発部が主導するのではなく、自発的に現場から課題が上がってくるような構造ができています。

参加しやすい環境づくり

 それぞれのネットワークが自由に活動できるよう、人材開発部では他にもさまざまな仕組みをつくっています。例えば、ネットワークごとに2名の役員がスポンサーになり、ボランティアで支援をしています。役員には、イベント開催時の開会挨拶や応援メッセージの発信などをお願いしています。また、運営体制や役割を明確にし、各々の経験や能力、時間の余裕などに合わせて役割を選んでもらうようにしています(図2)。運営メンバーの負担を軽減できる環境づくりをしているのです。

同時に、新たに運営メンバーへの参加を希望する人には、参加するメリットを明示しています。例えば、社内でさまざまな部門や年次の人との人脈を広げられること。また、日頃社内外で得られる情報から問題を発見し、解決方法をとことん話し合うという経験を重ねることで、問題発見・課題解決のスキルが身につくことが挙げられます。さらに、イベントの司会やパネルディスカッションのモデレーターの経験を通じ、プレゼンスキルやファシリテーションスキルといった、ビジネスにも好影響を与えるさまざまなスキルを磨くことができるのです。

こうしたメリットを明示することは、メンバー本人の意欲を上げるだけでなく、メンバーの上司の理解を得るためにも役立ちます。自分の部下が会社にどう貢献し、活動を通じて何を身につけ、どういったメリットがあるのか。それを上司に理解してもらうことで、メンバーが参加しやすい環境になるのです。

そのため、期末評定の時期には人材開発部の担当者がメンバーの上司のもとに直接伺い、活動内容の説明や協力へのお礼、今後の支援のお願いなどを伝えています。

こうした体制づくりにより図3のようなさまざまな活動が実践できています。

LGBTの理解を深める活動

 加えて、社員ネットワークの活動で特徴的なのは、LGBT当事者への理解を深めるための取り組みです。当事者ではなくてもLGBTについて理解し、支援しようとする立場の人を「アライ(ally)」と言いますが、彼らが中心となり、「アライになろう」というパンフレットをつくったり、ステッカーを配布したりしています。パンフレットには、当事者ではない人ができることがまとめられています。またステッカーは、デスクトップに貼ることで自分はアライだと表明している人がいれば、社内にいるLGBT当事者の安心感につながるのではないかというボランティアスタッフの意見から実現しました。

年に1回、「LGBTウィーク」も実施しています。これは社員食堂に先のパンフレットや虹色のコーンを置くというもの。もともとあまり関心がない人にも周知するには、食堂に置くのが効果的ではないかというのは、同じくボランティアスタッフから出てきたアイデアです。

LGBT当事者にとっては、「アライ」という看板を掲げることで、自分が当事者であると公表せずに活動に加われるという大きなメリットもあります。職場ではカミングアウトしていなくても、ネットワークの中では公表して参加している方も、何人かいらっしゃいます。

このような当事者でない人が中心となるアライの取り組みも、草の根活動の中から声が上がって始まりました。何に取り組むかを人材開発部で考えることも必要ですが、社員から上がってくる声を大事にしている点が、野村證券の社員ネットワークの特長だと思います。

ダイバーシティ・コンピテンシー

中島 こうしたダイバーシティの推進において、違うカルチャーを持つ人やグループをマネージするためには、どこに違いがあり、その違いのどこが大事なのかというポイントを見つけることが大切です。その点で同社の取り組みは、社員の自発的な活動だからこそ問題の在りかがよく分かる、素晴らしい仕組みだと思います。

ミシガン大学のダイバーシティ研究者、テイラー・コックスが提唱している「ダイバーシティ・コンピテンシー」を最後にご紹介したいと思います。

これは、多様性を強みとするプロセスに関する概念です。最初は気づくこと。気づくということは、「変化しなければいけない」という動機づけになります。そして変化に必要な新しい知識を得て理解し、行動する。このプロセスを経ることで、職場の課題に対応するための能力が身につくのです。

日本経済は今後も激しく変動し続け、企業においては経験したことのない課題に対応していくことが求められます。それらを解決する強みのひとつは、多様性の中から生まれます。そのための多様性管理やダイバーシティ・コンピテンシーを推進していくのは、人事に携わっていらっしゃる皆さんの責務でしょう。

【テーマ:経営者育成】個を重視した次世代リーダーの育成

2月5日(金)

■講演者三越伊勢丹ホールディングス執行役員人事部長中村守孝氏

■コーディネーター中央大学大学院戦略経営研究科教授中島豊氏

現在、百貨店の売り上げは、小売業全体の売り上げ140兆円弱のうち、約6兆円となっており、ピーク時の約半分に落ち込んでいる。さまざまな課題がある中で、どう成長していくのか。「その課題を解決するのは、やはり“人”です」と中村氏。特に、次世代リーダーが鍵を握る。その育成について語った。

グループ人事ビジョンの策定

私が人事部長に就任した2012年、最初に「グループ人事ビジョン」を策定しました(図4)。

このビジョンを実現するために、会社は「従業員のあるべき状態(図4上段)」の実現に向けて、機会の提供、環境の整備などに取り組みます。従業員は「求められる人財像(図4下段)」に近づくように努力します。どちらか一方が行うのではなく、会社と従業員が互いにやるべきことをやり、好循環させながら共にビジョンを実現するという考え方です。

その際のポイントは2つあります。まず、人財は有限であるということ。だからこそ個人が持てる力を最大限に引き出し、伸ばしていくことが重要なのです。グループの人財2万6000人全員が力を発揮するというのが基本的な考え方です。

徹底的に“個”と向き合う

人財育成とキャリア形成支援の具体的な取り組みとして、まず徹底的に“個”と向き合い、全体のレベルアップを図り、モチベーションを引き出すことがベースとなります。

例えば、ブラウスでも色、形、サイズといろいろな種類があり、グループ全体では数千万点の商品を取り扱っています。その全てがマーチャンダイジングのシステムで単品管理されています。商品の数千万点に対して、グループの人財は2万6000人。商品は管理できるのに、わずか2万6000人と向き合えないはずがないだろうと考えました。

そこで人事部は、「個と向き合う」というキーワードを掲げ、採用・教育・CDP、配置・評価という一連の人財育成フローをバリューチェーンと捉えてきました。

その中心となるのが、一人ひとりと向き合うCDP面談です。対象者はメイト社員(月給制契約社員)から部長職まで。年間1000名と1人45分間の面談を実施し、2015年度までに面談を行った人数は累計4000人に上ります。現状の課題や悩み、キャリアイメージをヒアリングし、アドバイスを行ってきた結果、一人ひとりのキャリア意識の醸成はもちろん、面談から得られる貴重なデータベースを人事制度改革の仮説検証にもつなげています。

従業員と向き合うことは一方通行ではなく、対話です。「私のことを見ていてくれる」といった意識を感じれば、「頑張ろう」と思えるはずです。ですから次に、「意欲を持って頑張れば次のキャリアにチャレンジできる仕組み」をつくったのです。

入り口は違えど、ゴールは公平

キャリア形成支援の思想は、「入り口は違えど、ゴールは公平」という単純明快なものです。私は、大卒定期採用社員やメイト社員に常にこのメッセージを伝えています。つまり、契約社員から入ろうと大学院を出ていようと、ゴールへの筋道・期間が多少違ってもチャンスは公平に用意してあるということです。

具体的には、例えば、フェロー社員(時給制契約社員)からメイト社員、メイト社員から正社員への積極的な転換が挙げられます。フェロー社員からメイト社員への転換者は累計約700名に上ります。また、メイト社員は2016年4月以降、入社初年度より無期雇用としますが、入社4年目から正社員登用試験を受けることができます。

既に累計400人が正社員となり、中には管理職にキャリアアップする人も出てきました。実際、フェロー社員として入社し、メイト社員を経て、正社員に転換してステップアップし、管理職登用試験に合格したという方も誕生しています。

メイト社員には「大卒定期採用社員を抜くつもりで頑張りなさい」、一方、大卒には「メイト社員に抜かれないよう頑張りなさい」と話しています。意欲ある人たちに対して門戸が開かれていなければ、モチベーションなど上がるはずもありません。ですから自らの意思で手を挙げられ、自己実現できる機会をしっかりと整えていきます。

次世代リーダーの戦略的育成

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