J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2016年03月号

OPINION2 転んでもタダでは起きない 失敗学に学ぶ 経験を力に変える仕組みづくり

人は誰でもミスをする。仕事にほろ苦い経験はつきものだ。
しかし失敗は、経験学習においては貴重な教材となるだろう。
個人と組織で “失敗”を学びの機会に変えるにはどうすればよいか。
そのヒントを、失敗学会副会長・事務局長の飯野謙次氏に聞いた。


飯野謙次(いいの けんじ)氏
失敗学会 副会長・事務局長
1959 年大阪生まれ。SYDROSE LPゼネラルパートナー、東京大学大学院工学系研究科特別講師。東京大学大学院修士課程修了後、GEの原子力発電部門へ。その後、スタンフォード大学機械工学・情報工学博士号取得などを経て現職。中部圏産学連携会議アドバイザリーボード委員、消費者庁安全調査委員会専門委員。全国各地で講演を行うなど、失敗学の普及活動を進める。


[取材・文・写真]=田邉泰子

失敗学とは何か

失敗学は、機械工学から生まれた学問だ。建築や鉄道、製造現場などで起きた事故やトラブルを振り返り、同じ失敗を繰り返さないようにするのが目的である。提唱者でもある、失敗学会会長の畑村洋太郎(東京大学名誉教授)が2000年に出した『失敗学のすすめ』という本がヒットし、その考えが世間に認知された。

失敗事例から学び、同じ失敗の繰り返しを防ぐために、失敗学では2つのステップを用いて失敗を考察するのが通例だ。

STEP1 原因を分析する

はじめに、失敗の原因を分析する。原因には「直接原因」と「間接原因」の2つがある。

「直接原因」とは、事故やトラブルの引き金となった物理的な出来事を指す。東京電力福島第一原発の事故の例では、「津波の影響で設備全体の電源を喪失したことによる、冷却系の機能不全」が当てはまる。

対する「間接原因」は、直接原因を引き起こした背景について探る。このため抽象的な要素も含まれる。先の例では、原子力保安院などが、“産業の育成”を主眼とする組織から生まれた機関だったために、安全性の追求が不十分だったことがそれに当たる。

この間接原因は、失敗学では重要な位置づけにある。失敗の根底に潜む要因を把握しなければ、再び同じ失敗を繰り返すことになるからだ。

原因分析を進めると、ほとんどの事例で、図1の10項目全てに何らかの要因が当てはまる。例えば、表面上は当事者の無知によって起こった失敗だとしても、「無知な人間にその仕事を任せた」理由を探ると「組織運営不良」にたどり着く。この図の周りにさらに分析結果を配置していくことで、1つの失敗を多面的に考察できる。

STEP2 失敗を繰り返さない仕組み

次のステップは、同じような事故やトラブルを起こさないための、新たな「仕組みづくり」である。

“仕組み”としたのには理由がある。失敗の対策というと、「今まで以上に注意する」という話で収束してしまいがちだ。しかし、人は心配ごとがあると集中を欠き、ものを食べれば眠気に襲われることもある。人の注意力に頼っていては、確実性に欠けるのである。そのため失敗が起こりえない、または確実にリスクを取り除く仕組みの創出が重要となる。

しかしこれが非常に難しい。仕組みづくりには、既存の手法やプロセスからいったん離れたアイデアが、解決の切り札となるからだ。

例を挙げよう。ある製造現場では、機械の周りで会議をした後、書類を機械の上に置いたのを忘れて持ち場に戻ってしまう人がいることが問題となっていた。注意を促すだけでは、置き忘れをなくすことはできない。そこで機械の形状を変え、書類を置けない丸い作りに変えたところ、書類を忘れることもなくなったという。

こうした、従来の手法に固執しない新たな“仕組み”が、再び惨事が起こるのを防ぐ。柔軟な発想力と豊かな創造性が求められることは、想像に難くないだろう。

個人の“失敗学習力”を引き出す

では、どうすれば失敗から学ぶ力と創造性を引き出すことができるのか。個人と組織の両面から考えてみたい。まずは「個人」における失敗との向き合い方についてだ。

●想定外の失敗がカギ

ほとんどの人は失敗すると、しょんぼりと落ち込むものである。失敗学では、この「落ち込む」というプロセスを重視する。「同じ失敗を繰り返したくない」という気持ちが働くからだ。落ち込み過ぎて冷静さを失った状態が続くのも問題だが、「失敗しても別に平気」というのでは、また同じ失敗を繰り返すのは目に見えている。

これを踏まえると、よく「失敗をさせるべき」とは言われるが、意図的に失敗を経験させることは悪いことではない。ただし当事者にとっては、その失敗が“想定外”であることがポイントだ。綿密な準備を重ねて自信を持って臨んだが、失敗に終わったという時、そこから得られる学びは大きい。上司は原因分析と仕組みの考案を当事者と共に行うなど、丁寧なフォローを心掛けたい。

とはいえ、実際の仕事ではミスが許されにくい状況にあるのも事実だ。そうした場合、仕事以外の場で失敗経験を与えることも有効だろう。

スタンフォード大学のバーナード・ロス教授の例を紹介したい。彼が担当する「設計者と社会」という授業では、「学生が抱える日常的な問題の、解決策の考案と実行」という課題を与えている。テーマは「ぎくしゃくした兄弟関係を改善する」など、設計とは無関係なもので構わない。うまく解決できれば、単位がもらえるという仕組みだ。

ロス氏にすれば、「とにかくやってみよ」ということなのだろう。もし失敗したら直接原因と間接原因を洗い出し、解決に向けての具体策を柔軟に発想できれば良いのである。

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